【参考文献】[1]ポール・クルーグマン、「私が東京で言ったこと」、niconicoffee氏の翻訳を利用。
Krugman P.,Meeting with Japanese Officials,2016.03.22
政府は消費税引き上げの効果をどのように見ているのだろうか。
- 数字的な検討を行っているのは内閣府が行った「中長期の経済財政に関する試算」である。
- そこで示されているのは、以下のような試算結果である。
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内閣府の試算:2024年まで。
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二つのケースを試算。
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経済再生ケース:経済成長率は実質2%以上、名目3%以上、消費者物価上昇率は2%程度。名目GDPは2020年度ごろに600兆円を達成。2024年の名目GDPは686兆円。公債等残高の対名目GDP比:2024年に1.76。
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ベースラインケース:経済成長率は実質1%弱、名目1%半ば程度。2024年の名目GDPは578兆円。公債等残高の対名目GDP比:2024年に2.10。
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経済再生ケースはアベノミクスの成功によって成長が回復し、そのとき、消費税をアップすると公債残高の対名目GDP比は改善することが示されている。それと比較するため、ベースラインケースがあるが、成長が回復しなければ財政状況は悪化することを示している。
- 消費税アップのみの効果は、ここでは求められていない。したがって本試算と政府試算の比較は単純にはできないことになる。
- 問題は、政府の政策によって成長率が回復し、物価の伸びが高まるかどうかだ。ここではアベノミクスのみならず、こうした政策によって日本の成長が高まることには悲観的だ。その理由に関しては、ゴードン仮説を参照してほしい(室田[4])。
- ここで内閣府が利用した「経済財政モデル」に関して、問題点を簡単に触れておく(モデル出所は内閣府計量分析室[3])。
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このモデルは式の数が2,345本という大きなモデルである。普通の人は規模に圧倒されるかもしれない。
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その内容は、財政関連が1,182式(うち推定式は12式)、社会保障関連が714式(うち推定式は50式)、マクロ経済は281式(推定式49式)、人口構造・労働供給が168式(推定式=0)。
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問題は、式のほとんどが定義式2,234式であること。
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要するに細かい数字を出すためのモデルといえる。行動方程式(推定式にほぼ相応)は111式しかないことが分かる。また、外生変数は1,556個であり、ほとんどこのモデルは定義式と外生変数の置き方で結果が決まってくることが分かる。
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このモデルの問題は、海外関連が極めて手薄なこと。海外関連の主な外生変数は、世界経済成長率、世界経済物価、アメリカの国債金利などのみ。現在のように海外要因で経済が動くときにはあまりふさわしくない。
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もう一つの問題はモデル体系の推定が古いこと。この点は注記がないのでわからないが、どうもこのモデルは2010年版が最新のようだ。そうだとすれば現在より5年以上前で、しかも「311」などは含まれていないことになる。
【参考文献】
[1]財務省、「わが国財政について」、Ⅱ社会保障と税の一体改革、H27.9
[2] 内閣府、「中長期の経済財政に関する試算」、H28.1.21
[3] 内閣府計量分析室、「経済財政モデル」(2010年度版)、資料集、H22.8
[4] 室田泰弘、「変動期における経済予測とシミュレータの開発」、経済学論究、第71巻、第2号、2017.09