「藁のハンドル」を読む
2026.06.13
・「藁のハンドル」は、近代自動車産業の基礎を築いたヘンリー・フォードの自伝である。この変わったタイトルは、フォードがコスト高だった木製のハンドルを藁から作った合成物質で置き換えたことに由来する。
・本書を読んだきっかけは、マスキズム(Muskism)だ。これは翻訳本がすぐ出たので、日本語で読むことができる(参考文献[2])。これに関して、ある人のコメントである「フォーディズムが20世紀のOSならマスキズムは21世紀のOSだ」という言葉にひかれたからだ。ちなみに、OSとは「パソコンやスマートフォンなどのハードウェア(機械本体)を管理・制御し、アプリを使えるようにする『基本ソフトウェア』のことだ(AIによる解説)。まず20世紀のOSであるフォーディズムを見直そうと考えたのだ。
・この本はヘンリー・フォードが自動車の大量生産方式を確立したやり方を述べたものだ。そのエッセンスは、「わが社の発展は、1914年、最低賃金を一日2ドル余りから5ドルに引き上げたときに始まる。なぜなら、その結果、私たちは自社の従業員の購買力を高め、彼らがまたその他の人々の購買力を高めるといったふうに、その影響がアメリカ社会全般に波及していったからである。高賃金の支払いと低価格での販売とで購買力を増大させる」(参考文献[1]、p27)にある。
・通常資本家は、利潤を上げるために労働者の賃金を買いたたくことで低めに抑える。フォードはこの逆を行ったわけだ。現代のマクロ経済風にいえば、それによって有効需要を創出し、結果として車の購買力を高めたことになる。これを大量生産方式と結び付けたわけだ。
・さて本題に戻るのだが、マスキズムにはフォーディズムのようなマクロ的インパクトはあるだろうか。テスラにせよ、スペースXにせよ、人々の常識を破る大変な技術革新には間違いない。しかしそのインパクトは需要面より、供給面に現れそうだ。それはマスクがこうした技術革新利用の目的を火星への旅と位置付けていることからもわかる。そうだとすれば、マスキズムが問うているひとつは、21世紀に政府は何をなすべきかではないか。
・マスクがこうした事業を成し遂げた場合、政府の役割とは何か。よくエコノミストは政府が技術革新を促進すべきだと主張する。おそらく、これはちがう。政府でなく、マスクのような技術オタクが面白さにひかれて新たな新機軸を生み出す。これが成長の出発点だ。だとすれば日本ではこの出発点が欠けているのではないか。
(参考文献)
[1]ヘンリー・フォード、「藁のハンドル」、竹村健一訳、中公文庫、2002
[2]クイン・スロボディアン、「マスキズム」、樋口武志訳、飛鳥新社、2026
