AIと経済予測
2025.11.29
・ご承知のとおり、筆者らは経済予測を主な仕事としている。この頃よく聞かれる質問は、「AIが進むにつれ、経済予測の仕事もAIにとってかわられるのではないですか」というものだ。そうだとすれば筆者らの仕事はなくなってしまう。
・幸いなことに、「そうはなりません」というのがわれわれの答えだ。その理由は筆者らの開発したe予測の仕組みにある。
・e予測は、次のプロセスをたどる。①将来に関して複数の定性シナリオを描く。②各シナリオに主観的確率を与える。③各シナリオに基づいてマクロモデル、産業連関表、エネルギーモデルなどの数理モデルを回して、様々な将来数字を作成する。④その数字を人間が多方面から検討することで内容を絞り、さらにシミュレーションを繰り返す。⑤その結果、将来像がおぼろげに見えてくる。⑥それを文章化する。という形で予測を作成している。これは気象予測のアンサンブル予測のやり方に似ている。
・最近のルカン(AIの先駆者、チューリング賞を受賞)の議論にもあるように、AIには世界モデルがない。これは上の議論に戻してみれば、計算のもとになるシナリオがないということだ。したがってAIは、機械的な予測を別にすれば、日本の将来に関する有意義な見通しなどをつくれないことになる。こうした予測を作るには長年の経験に基づいた直観力と世界観が必要だ。これはAIの持たないものだ。AIのパラドックスといってもよいだろう。たとえば1979年に作られた家庭用ゲーム機「アタリ2600」が最先端のチャットボットをチェスで打ち負かせることができることを思い出してほしい。
・以上のことから、幸いにしてわれわれは経済予測でまだ飯が食えそうだ。
(参考)
[1]Synthefy,"Why LLMs Can't solve Timeseries",Medium,Jul.08,2025
[2]Christopher Mims,"What are 'World Models' The key to the Next big AI leap",WSJ,Oct.06,2025
[3]Jeffrey Brainard,"AI-generated scientific hypotheses lag human ones when put to the test",Science,Aug.28,2025
