トヨタがソフトで後れを取る
2025.09.13
・最近のクルマはSDV(software deifined vehicle)などと呼ばれることが多い。つまりハードでなく、ソフトがその性能の決め手になるというのだ。そのシンボルとなるのが、テスラだ。テスラは内燃機関駆動ではなくEV(バッテリー駆動)で、しかもソフトコントロールを前提として設計されたクルマだからだ。
・残念ながら日本の自動車メーカーはこの大転換に乗り遅れたようだ。ガートナーの「デジタル自動車メーカー指数」2025年版によると、一位はテスラ、2位はNio(上海蔚来汽車)で、トヨタは21位と大きく後れを取っている(参考文献[1])。
・最近トヨタは高級車レクサスを製造する重要設備に「中国製」を採用するようだ(参考文献[2])。2025年2月に上海にレクサスのEV新工場を建設することを発表したが、ここでの目玉は中国製のギガキャストという新技術の採用だそうだ。つまり新技術を中国に頼っているわけだ。
・ギガキャストは最初にテスラによって採用された(2020年、モデルY)。これはアルミ合金の一体成型技術で車体の主要部分を作成する技術だ。ちなみにテスラ向けの鋳造機を担当したのはイタリアのイドラ社だが、同社は2008年中国の鋳造機メーカーLKテクノロジーに買収された。つまりこの分野の技術は中国が抑えているのだ。
・10年ほど前にテレビでテスラ工場の実写が放映されそこでギガキャストが一部映っており、その先進性に驚いた覚えがある。当方も一応技術出身なので、こうしたみる目を持っているが、日本の現役エンジニアだったら、もっとはっきりその意義を理解できたはずだ。
・日本メーカーが新しい技術に乗り遅れるのは、中島聡氏のブログ「life is beautiful」でも何回か取り上げられている。いよいよフィナンシャル・タイムズのような経済紙にも取り上げられるようになった。
・技術の主流が大きく変わるとき、過去の栄光にすがる日本が乗り遅れる姿は、第二次大戦中のレーダー採用の遅れにもはっきり表れている(参考文献[4])。海軍レーダー開発の中心となった伊藤康二技術大佐の悲劇はそれの典型だ。数少ない理解者に軍令部第三課長の柳本柳作大佐がいたが、彼はミッドウェー海戦で空母蒼龍の艦長として戦死してしまう。
・昭和17年5月フィリピンでの戦利品に英軍の射撃用電波標的機があり、そこには八木アンテナが使われていた(参考文献[4]、p138)。また昭和17年10月サボ沖海戦で平賀造船中将の代表作「古鷹」も敵のレーダ射撃により数分で沈んでしまう。日本海軍が得意とする夜戦で反撃する間もなく負けてしまったわけだ。この時米軍が使ったのがマグネトロン利用の水上用射撃レーダーだった(レイセオン社製GSI型)。
・現代に戻る。今のクルマは、兵器ではないが、一国経済の将来を左右する重要な商品だ。技術変化で内容が一変するとき、それについていけない国の将来はあまり明るくない。ちなみにトヨタの内情に関しては、小説だが「トヨトミ」シリーズが面白い(参考文献[3])。お暇なときに読んでみたらどうだろうか。
(参考)
[1]Kana Inagaki,Harry Dempsey,David Keohane,"'Full of bugs:how the world's biggest carmakers fell behind insoftware ,FT,Aug.29,2025
[2]Facta,「ハードもソフトも惨敗『ニッポン』」、2025年9月号
[3]梶山三郎、「トヨトミの世襲」、小学館、2023
[4]中川靖造、「海軍技術研究所」、光文社NF文庫、1997
[5]MotorFan,「ギガキャストへの『迷い』の中身、日本勢でも思案中の理由」、2024.08.11