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GDPを超えて

GDPを超えて

 2025.08.16

 

・オランダのライデン大学・大学院生であるアンゲケ・ジャンセン氏による「GDPを超えて」という論文が各方面の注目を集めている(参考文献[1])。まずその内容を紹介する。

 

 *著者の問題意識:GDPで測られる経済成長のみに焦点を当てた経済システムでは、すべての人々の持続可能な幸福は達成できない。

 

 *GDPが幸福を直接的にとらえるものではないことは長年にわたり認識されてきた(クズネッツ:GDPは人々の健康、安全、幸福などをとらえられない)。

 

  例1:1995年から2021年にかけて世界全体の富の増加をみると、高所得の上位1%の人々が増加分の38%を得ているのに対し、最低所得の下位50%の人々が得ているのはわずかに2%。

  例2:短期的なGDP成長への重点は、環境破壊を招き、将来世代の潜在的な幸福を著しく制限する可能性がある。

 

 *目指すべき方向:今日および将来の人類全員が、地球の限界と健康的な生活の社会的経済的基盤を尊重しながら、健康と幸福の中で生活できるシステムへの移行が必要:それには幸福、包摂、持続可能性(wellbeing,inclusion,sustainability)を念頭に置く必要がある。

 

・確かにウェルビーイングはWHO(世界保健機関)憲章で定義されて以来、GDPに代わるものとして各方面で議論されてきた。

 

・こうした努力は多としなければならない。しかし本来幸福感とは、人によっても時代によっても、地域によっても異なる場合が多い。たとえば目指し一匹で熱いご飯を食べるのが幸せの人もいるし、高級レストランで摂るフランス料理がなければ満足しない人もいるだろう。

 

・その意味で、哲学者市井三郎の「不条理を減らす」という考え方の方が、この問題を考えるには、より生産的に思える(参考文献[2])。つまりプラス面を増やすことに目を向けるのではなく、マイナス面を減らす方向で考えるのだ。

 

・日本もこれから歴史の激動期に放り込まれる。安定的な国際環境に守られた豊かな生活は過去のものになりつつある。「この時代にどう生きるか」。それを考えるに際して、人々の幸せとは何かという基本問題を無視することはできない。

 

・出張のため2回ほどブログを休みます。

 

(参考文献)

[1]Annegeke Jansen etal.,"Beyond GDP:a review and conceptual framework for measuring sastainable and inclusive wellbeing",The Lancet Planetary Health,Sept.2025,pp695-705

[2]市井三郎、「歴史の進歩とはなにか」、岩波新書、1971