AIによる職業の浸食
2025.06.21
・各所で専門職のAIによる浸食が始まっている。
・具体例を挙げる(参考文献[1]による)。
*ニューヨークの一流法律事務所の話。ある多国籍企業の合併により、4つの法域における規制リスクに関する微妙な疑問が浮上した。この法律事務所のパートナーはAI生成プラットフォームにクエリを入力した。
*1分以内に、AIは判例、法令、リスク評価を統合した、ジュニアアソシエイトが1週間かけても到底作れない、包括的な結果を提示した。
*このパートナーは内容を確認し、いくつかコメントを加えてクライアントに転送した。
・こうしたことが、法律だけではなく、医学、金融、工学の分野ですでに始まっている。中世ヨーロッパではかって筆写者が文字の独占権を握っていたが、グーテンベルクの印刷機によってこの階層構造は消滅した。つまりその職業の価値が、体系化された知識や反復可能なプロセスへの排他的なアクセスに基づいている場合、AIのような技術革新にぜい弱だということだ。
・実際法律分野では、AIプラットホームHarveyがあり、医療分野ではグーグルのMed-PalM2がその役割を果たしつつある。金融分野ではブラックロックのアラジン・プラットホームがある。つまり従来エリートと思われていた職業の解体が進みつつある。いわゆるサムライ商売(弁護士、会計士、医師など)従事者で、真の熟練(与えられた問題に対し、社会、政治、経済その他多面的な角度から本質的な検討を行える)を持たず、単に専門的知識を切り売りしているだけの人は急速に不要になりつつある。
・ただし単純なAI万能論に従う必要はない。AIが「大したモノではない」という、言語学者エミリー。ベンダー(Emily Bender、ワシントン大学教授)の議論も頭の隅に入れておく必要がある(参考文献[3])。今の日本はAI万能論が横行している。たしかにAIによる変化は激しい。しかしそれに流されることなく、その限界や問題点にも留意すべきだ。残念ながら国産AIが育たなかったため、日本ではこうした多面性が欠けているように見える。
・出張のため、3回ほどブログを休みます。
(参考)
[1]Samuel Alemayehu,"The end of prestige:How AI is quetly dismantling the elite professions",Medium,June18,2025
[2]Tony Momoh,"5 Industries AI will completely takeover by 2026",Medium,June 10,2025
[3]George Hammond,"AI sceptic Emily Bender:'The emperor has no clothes'",FT,June 21,2025