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ファミリーヒストリー「佐藤浩市」をみる

 ファミリーヒストリー「佐藤浩市」をみる

  2025.05.10

・同僚に勧められて、「ファミリーヒストリー:佐藤浩市」を見た。この番組は出演者の先祖を追うもので、今回は俳優の佐藤浩市が当事者。したがって番組は彼の父である俳優三国連太郎の生きざまに焦点を当てている。

 

・三国連太郎に関しては、10年ほど前ノンフィクションライターの宇都宮直子がオール読物にルポを乗せており、その内容が面白かった。その意味で今回の番組で三国をどう扱うかが興味を引いた。

 

・この番組を見て、改めて驚いたのは三国の”意思の強さ”だ。戦争に行っても銃を一発も打つことがなかったという。また映画スターになった後も五社協定(松竹、東宝、大映、新東宝、東映が結ぶ:他社への無断出演を禁じる協定)を公然と無視し、松竹大船撮影所の門扉に「犬・猫・三国、入るべからず」という看板が取り付けられたという。

 

・これを見ながら思ったのだが、最近の日本人の”意志の弱さ”だ。直木賞作家伊与原新の「藍を継ぐ海」に次のくだりがある(参考文献[3],p31-32)。

 

  「久保さんは何年目だっけ?」学科長が聞いてくる(筆者注:久保さんは大学の任期付助教)。

  「4年目です」

  「早いもんだね。じゃあ来年は再任審査か」

  ・・・

  「地味な研究を着実にやるのが久保さんのいいところだとは思うけどもね。やっぱり、もうちょっと外部にアピールできるような、時流に乗ったことにも挑戦しないと。」

 

・こうした”時流に乗った”研究だけが幅を利かせた結果が、現在日本技術の体たらくだ。次回に取り上げる予定だが、日本はAIランキングで世界のトップテンにも入れていない。今、日本の技術者にとって必要なのは、三国連太郎流の”がんこさ”だ。戦争に行き上官の命令に背いて鉄砲を撃たないことに比べれば、現代で”時流にのれない”研究を地味に進めることのきびしさなど大したことはない。いまこそそうした研究が必要とされている。

 

(参考)

[1]NHK,「佐藤浩市~父三国連太郎が背負い生きた道を~」2025年4月30日

[2]宇都宮直子、「三国連太郎 彷徨う魂へ 死の淵より」、オール読物、2015年3月号

[3]伊与原新、「藍を継ぐ海」、新潮社、2024