BYD再言
2025.04.26
・今週もBYD(比亜迪)について触れる。
・かなり前のこと(十年前?)のことだが、ナショナル ジオ グラフィックのテレビを見ていたらテスラの工場の画像が映っていた。そこで行われているギガキャスト(車体部品の一体成型化)がたまたま映っており、その先進性にショックを受けた覚えがある。当方は一応エンジニアで同級生は自動車メーカーに行った人も多かったから、この分野に若干なじみがある。
・しかし日本自動車メーカーの、これに対する反応はいまいちだった。当時日本は世界一の自動車王国となっており、海外のことを低く見ていたからだ。この傾向は今も続いている。
・BYD(比亜迪)といえば、中国メーカーであり、まだ日本の自動車メーカーは低く見ているのではないか。しかしその販売台数はホンダ並みになり、日本でも積極的な販売攻勢を掛けている(販売店網の整備や活発なテレビコマーシャル)。
・伝えられることによると、BYDは日本に”軽規格”EVを来年後半にも投入するようだ。”軽規格”は日本独自のもので、欧州などからの小型車輸入制限に”役立ってきた”。つまり貿易障壁として役立ってきたわけだ。この壁をBYDは軽々と超える。
・これは予想以上に大きな問題を含んでいる。BYDはEV、PHV、ガソリン自動車、なんであれ、市場が求めるものを競合相手より安くしかも素早く生産できる技術体系を作り上げたのではないか。しかもその重要な技術要素として、日本メーカーが苦手とする自動運転とOTA(over the air)を含んでいる。
・そうだとすると日本メーカーは、これに太刀打ちするのは難しい(ITに対する日本メーカーの後進性に関しては中島聡氏のブログに詳しい)。いよいよ自動車王国日本にも厳しい風が吹き始めたようだ。
・日本が自信のある分野で、全く新しい技術が生まれたとき、それに適応するのは、あまり上手とは言えない。古い話になるが、第二次世界大戦はレーダーの有無が勝敗を決めたといってもよい。その深刻さに日本海軍が組織として気づいたのは、昭和19年になってからのようだ。もちろんレーダーの有用性に関して、少数の理解者は居た(たとえば柳本柳作軍令部第三課長)。しかし彼は空母蒼龍の艦長として、ミッドウェーで戦死してしまう。
・今回のBYD騒動が、第二次世界大戦におけるレーダー敗戦の二の舞とならなければ、幸いだ。
(参考)
[1]中山靖造、「海軍技術研究所」、光人社NF文庫、1997
[2]June Yoon"Donald Trump has given BYD the edge over Tesla",FT,Apr.23,2025
[3]Yahooニュース、「中国BYD 日本向け”軽EV”投入へ」2025.04.23