疑似生産性(pseudo-productivity)に関して
2024.11.02
・現代は、工業化から情報化への転換期だ。
・では情報化時代の生産性とは何か。それはどのようにして達成されるのか。この問題に真正面から取り組んだのが、カル・ニューポート(ジョージタウン大学コンピュータ科学准教授)だ。
・工業化時代の生産性は 簡単に定義でき、測定できた(参考文献[1]、p18)。自動車メーカーフォードの工場とテイラーシステム(米国の機械技師テーラーが20世紀初頭に提唱した工場管理の方式、作業者の動作や所要時間を計測し、それの短縮化を図る)を思い出せばよい。
・しかしこのやり方で情報化時代の生産性を測ることはできない。工業化時代のやり方で情報化時代の生産性を測ることを彼は疑似生産性(pseudo-productivity)と呼んでいる(参考文献[1]、p22)。当然のことながら、情報化時代に成果を上げるために疑似生産性を用いると失敗する。それは誤った指標だからだ。たとえて言えば画家に2日以内に客が要求するような絵を描けというようなものだ。せいぜい生じるのは画家のストライキだろう。
・ではどうすればよいか。彼は3つの提言を行っている(参考文献[1]、p41)。
①仕事を減らす(do fewer things)。
②自分のペースで仕事を進める(work at a natural pace)。
③短期的な成果にこだわらない(obsess over quality,詳しくは参考文献[1]第5章)。
・いずれも含蓄のある言葉だ。これから本筋とはちょっと外れる。筆者がこの本を読んで最も面白かったのは、フェルマー定理を証明したプリンストン大学の数学者ワイルズが、大学教員としての忙しい毎日の合間にどうやって時間をやりくりして、この定理の証明に取り組んだかのエピソードだ(参考文献[1]、p66)。
・ここまで来てちょっと思ったのだが、筆者が日々行っていることはどうもカル・ニューポート流の働き方のようだ(以下自画自賛なので、スキップしてかまいません)。毎日プログラムを書いているが、自分のペースだし、成果物が世の中に出るのはまだ先のことだろう。また夏はコンピュータを抱えて田舎に行き、ウィンドサーフィンをしながらネット経由で仕事をしている。こうした仕事の成果がどのようになるかは、わからない。しかし少なくともインプットに関しては、カル・ニューポートのいう21世紀型知識労働者のそれだ。おかげさまで燃え尽きることもない(ちなみにカル・ニューポートの本のタイトルの副題は”燃え尽きないで仕事を達成する”)。
(参考)
[1]Cal Newport,Slow Productivity,Penguin,2024