中国のCO2排出量ピークへ
2024.09.21
・ワシントンに本拠を置き、10年以上も中国のCO2排出量を調べてきたシンクタンクAsia Society Policy Instituteの研究者であるLauri Myllyvirta氏は、中国政府の宣言していた2030年より以前に同国のCO2排出量がピークに達する可能性があることを指摘した(参考文献[1])。これは中国のクリーンエネルギー生産が大幅に増加し、かつエネルギー消費がそれほど伸びなかったときに生じるようだ。このニュースは地球温暖化にとって朗報といえる。
・ところで”環境先進国”である日本はどうか。日本の場合、CO2排出量のピークは2013年で2022年の排出量はそれより2割ほど減っている。この意味で日本は中国に先んじている。しかしこのペースでは、2030年に2013年比46%減公約」の実現はなかなか難しい。目標達成には、今後年率5%弱のCO2排出量減少が必要とされるが、実績(2015年から2022年)減少率は2.3%にとどまるからだ。減少スピードを倍にする必要がある。
・さてどうしたものか。前にもちょっと触れたが、カナダの研究者スミルの指摘に立ち返らざるを得ない。ちなみに今のGAFAのリーダー達はこれを基本枠組みとして、ITを進めた場合の脱エネルギーを模索している。
スミルは、「近代文明を4つの物質(セメント、鉄鋼、プラスティック、アンモニア)からとらえる。彼はそれがどのように現代社会に関わったかを詳しく検討し、その背後に化石燃料の大量消費が存在したことを見出している。よく脱化石燃料などと簡単に言うが、この文明構造を基本的に変えない限り、それは難しい。」(参考文献[3])
・日本の場合、エネルギー需要構造は既存のままで、供給を化石燃料から水素などへの転換を図ることで、温暖化問題を乗り切ろうとしているが、これはおそらくうまくいかない。たとえば、日本の将来経済で、どれだけの水素を輸入できる財政的余裕があるかどうか、考えてみたことはあるだろうか。
・ちょっと話が飛ぶが、最近、脱原発は、電力需要が伸びるから無理だという議論が出ている。この場合にも、その論拠はAIが電力多消費的であることだろうが、いったい将来の日本経済でどれだけ電力が必要かの検討が十分になされただろうか。これを見るためには、マクロ経済、産業構造の将来値を踏まえてエネルギー需要を求め、その中で電力需要を位置づける必要がある。
・ちょっと手前みそになるが、e予測はこうした検討のための数字を用意している。
・海外出張のため2回ほどブログを休みます。
(参考)
[1]Xiaoying You,”What does peak emissions mean for China --- and the world?”、Nature,19,Sept.,2024
[2]環境省、「2022年度の我が国の温室効果ガス排出・吸収量について」、2024.04.12
[3]Vaclav Smil,How the World really works,Penguin Books,2022