「真夏のオリオン」をみる
2024.09.07
・ネットフリックスで「真夏のオリオン」を見た。これは2009年制作の映画だが(玉木宏主演)、終戦直前の日本潜水艦とアメリカ駆逐艦の攻防を描いている。これを見て、ローバート・ミッチャム・クルト・ユルゲンス主演の映画「眼下の敵」(1958年)を思い出した。
・「真夏のオリオン」を見ながら思ったのだが、残念ながら日本海軍は潜水艦運用に関する基本戦略を持ち合わせていなかったようだ。
・まず事実関係から(参考文献[1]、p76)、
*太平洋戦争で出撃した日本海軍の潜水艦は162隻、うち127隻(8割強)が還らなかった。
*その戦果は空母、巡洋艦、貨物船など85万トンを撃沈。これに対し連合軍側の潜水艦は日本側の艦船486万トンを撃沈した。
*日本側は潜水艦の利用法を艦隊決戦用の補助能力としてとらえていたようだ(つまり日本海海戦における水雷艇の役割か)。たとえば同盟国ドイツが潜水艦で貨物輸送船を狙うようにしつこく頼んだのに対し、日本側はその要請をはねつけた(参考文献[2]、p384)。
*日本潜水艦は、レーダーに対する認識が甘く、夜間浮上して電池の充電を行っているときに、レーダーでその存在を探知した連合軍航空機に爆撃されたケースが多い。
*構造的にも問題があった。日本からドイツまで寄港した日本潜水艦が、ドイツ側のチェックを受けた。するとエンジンやモーターからの雑音が大きく、ソナーで簡単に探知されてしまうことが分かった。ドイツ側が改良を加えると嘘のように、雑音が消えたという(参考文献[3]、p140)。
・勇猛だった日本の潜水艦乗りには深く敬意を表するが、残念ながら基本戦略や船体構造などに問題があったようだ。
・なぜこうした昔話をするかというと、これが現在に通じるものがあるからだ。当方は前にも述べたように、ソフトを毎日書いているが、日本のリーダー(経済、政治、官界など)が今生じているIT革新の波を本当に理解しているのか、疑問を持たざるを得ない。これはちょうど太平洋戦争時に、上層部がレーダーや潜水艦の何たるかを理解せずに、基本戦略を立てられなかったことと似ている。
・たとえば最近マイナンバーカードが保険に紐付けられたが、実際に病院で使ってみると大混乱だ。カードだけでは情報不足で、紙の保険証も出さなければならなかった。要するに設計がきちんとしていないからだ。しかも上の人はソフトのことなどわからずに(どうせプログラムもかけないだろうから)、強引に普及を進めている。これはまるでレーダーの存在など知らずに、潜水艦に洋上展開を命じた旧海軍と同じだ(昭和19年、散開していた日本潜水艦は、その配置を読まれて1隻の駆逐艦イングランドによって5隻沈められた、参考文献[1],p119)。これでは21世紀のIT時代を日本が乗り切ることは難しいだろう。
(参考)
[1]勝目純也、「日本海軍潜水艦戦記」、イカロス出版、2021
[2]C.W.ニミッツ、E.B.ポッター、「ニミッツの太平洋海戦史」、恒文社、1973
[3]中川靖造、「海軍技術研究所」、光人社NF文庫,1997