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NHKスペシャル「東京裁判」を見る

NHKスペシャル「東京裁判」を見る

 2023.10.28

・最近ネットフリックスで、NHKスペシャル「東京裁判」を見た。これは2016年にNHKで放映されたものだ。事実を忠実に追いながら、ドラマ仕立てとしている。

 

・この番組の対象は、第二次大戦の敗戦国日本に対する極東国際軍事裁判(1946年5月から1948年11月開催)だ。

 

・興味深かったのは、「事後法でさばけるか」という問題を提起している点だ。つまり事件が発生したとき法律で罰則が決まっていない問題を、それが生じてから立法した法律で裁くことができるかという問題だ。

 

・具体的には、「平和に対する罪」である(これを罪とする国際法は戦前には存在しない)。これによってA級戦犯となったのは23名だった。その中には、荒木貞夫、木戸幸一、平沼騏一郎、東条英機、東郷重徳、星野直樹、岡敬純、広田弘毅など戦前のそうそうたる指導者が含まれている。事後法の適用に関して疑問を提起したのは、インドのラダ・ビノード・パール判事であることは記憶されてよい。

 

・この番組で、もう一つ興味深かったのは、判事が判決を下す基準だ。たとえば東郷重徳(開戦時の外務大臣)に関しては、「彼は戦争開始に反対だった」という無罪論に対し、「ではなぜ外務大臣を辞任してその意見を貫かなかったのか」という反論で有罪が決まっている。

 

・東郷と対照的なのが岸信介だ(元商工省官僚、満州時代は”弐キ参スケ”と呼ばれ東条英機、星野直樹とともに中心的な地位を占めた)。彼はA級戦犯容疑で拘留されたが不起訴のまま釈放されている。

 

・その背景には、岸が東条内閣で有力閣僚となったが、”閣内不一致”で内閣を退陣に追い込んだ”実績”があるだろう。

 

・この時の情景を吉松安弘の「東条英機暗殺の夏」はリアルに描いている(同書、P525)。

 

 *岸:東条首相に辞表提出を断る((筆者注)そうすると内閣不一致で東条内閣がつぶれる)。

 

 *憲兵隊の四方隊長が岸邸にサイドカーで乗り込む。

 

  四方「あんたは何ということをしているんだ。内閣の責任は総理が持っている。総理の東条閣下が右向け右、左向け左といえば、閣僚はそれに従うべきではないか」

 

  岸「君はそういうが、日本において、右向け右、左向け左という力を持っているのは、天皇陛下だけではないか」

 

  四方:軍刀で、式台をバシッとたたく。

 

   「貴様、なにをいうか!・・・東条閣下のご命令に従えないなら、さっさと大臣をやめたらどうなんだ」 「答えんのか、裏切り者が!」

 

・岸はこの脅迫に耐えたために、戦後の復活がありえた。政治信条はともかく、彼に鋭い政治感覚とリスクをとる度胸があったからだろう。

 

・さて今の政治家は、どちらタイプか。東郷重徳か。それとも岸信介か?もしかしたら東郷大臣(戦争回避努力をしたことは事実)レベルにも届かないかもしれない。

 

(参考)

・吉松安弘、「東条英機暗殺の夏」、新潮文庫、平成元年