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エネルギー経済学の終焉とその先

エネルギー経済学の終焉とその先

  2023.07.15

 

・最近思うのだが、エネルギー経済学はそろそろその役割を終えたようだ。新たな時代には異なるアプローチが必要とされる。

 

・エネルギー分析は1973年の石油危機をきっかけとして立ち上がり、1990年代の温暖化問題を経て現在に至っている。その貢献は以下のとおりである。

 

 

 ①トランス・ログ型生産関数の導入:これによって多要素生産要素の生産関数が利用可能になった。エネルギー分野でいえば、資本、労働に加えてエネルギーを生産要素に加え、エネルギーが経済成長のネックになるかどうかの検討が可能になった。

 

  *しかし分析結果からは、はっきりした結論は導けなかった。それは資本の定義次第でエネルギーと資本とが代替的に計測されたり、もしくは補完的に計測されたからだ。

 

 ②エネルギー価格をめぐるホテリング定理とその発展としてのバックストップテクノロジー:これによって希少資源の価格の動態的分析が可能になった。

  

  *この点に関してノードハウスの貢献は大きい。しかし実際の石油価格の将来動向分析にはあまり役立たなかった。それは石油価格が経済的要因だけではなく、政治や技術的要因によって大きく左右されるからだ。

 

 ③温暖化問題の経済分析。1990年代には、温暖化問題が人々の関心を集めた。これに対する分析手法として、制約条件(例えばCO2制約)下の、最適成長経路などが求められた。これはクープマンスの定式化を利用したものだが、具体的なモデルとしてノードハウスのDICEなどがある。

 

 *この型のモデルは今でも分析に用いられているが、率直に言ってあまりインプリケーションはでてこない。それは後でも触れるように、温暖化問題の基本がカオスやヒステリシスにあるからだ。つまり予知可能性をモデルに入れた段階で、大事なポイントが抜けてしまう。

 

・こうして1970年代から様々な分析結果を出してきたエネルギー経済学だが、そろそろ賞味期限が切れつつある。その理由は以下の通り。

 

 ①エネルギー問題の分析結果は、政治的原因(例:中東情勢)や技術要因(例:確認可採埋蔵量の定義を巡る議論など)によって大きく振られる。そこに単純な想定を置く経済モデルはあまり面白い結果が導けない。その意味ではマンデルブロートのファットテイル分析の方がより現実味がある。

 

 ②温暖化問題は、上にも述べたが基本的にカオスの世界だ。詳しく知りたい人は気象学の泰斗ザルツマンのDynamical Paleoclimatologyを読むことをお勧めする。したがってノードハウス流の将来を既知として、割引率で現在と結ぶというモデルはこの分野にあまりふさわしくはない。ノードハウスもこの点を気にしており、ティッピングポイントなどをモデルに含める試みをしているが、あまりうまくいっているとは思えない。

 

・ではどうすればよいか。

 

・世界は大きく変わりつつある。第一のドライバーはIT革新だ。第二は政治的多極化の進行だ。こうした状況においては、気象学のアプローチを参考にしながら、高速シミュレーションモデルを開発して、将来をアンサンブル予測するしかない。ちなみにe予測はこれを目指している。

 

・蛇足だが、気象予測がどんなに大型コンピューターを使おうと、せいぜい予測が2週間程度であることをご存じだろうか。これがMITのロレンツが最初に見出したことだ。