日本のクルマ産業:迫りくるIphpneモーメント
2023.06.03
・今回も日本のクルマについて記す。クルマ産業の盛衰が日本経済の近未来を決めかねないからだ。
・ケータイでIphoneが発売され(2007年)、それがケータイで急激に圧倒的シェアを得た現象をIphone モーメントといっている。IT時代には、こうしたIphone モーメントが起こりやすい。心配なのはこれがクルマで起きるのではないかということだ。そのきっかけはクルマのEV(電気自動車)化だ。
・世界はEV化に向けて急速に進みつつある。最近のニュースとしては、中国市場でEV化が進んだために、三菱自動車がエンジン車の現地生産中止を余儀なくされたことが報じられている。
・話をトヨタに転じる。同社は現在世界一の自動車メーカーだが、EVへの転換は遅れている。同社がディーラー向けに提供した「なぜトヨタがEVを積極的に売らないか」という文書がリークされ、図らずもトヨタの立ち位置が明らかになった(中島聡氏のLife is Beautifulに教えられた)。
・そこでは、①EVを量産するに必要な電池等が調達できない、②充電インフラの未整備、③EV高価なので一般人には購入できない、などがEV普及の難点としてあげられている。
・しかしテスラの例を見るまでもなく、これはトヨタがEV化の方向を見誤ったため、こうした障害に対し、十分な投資を行ってこなかったことの結果にすぎない。
・こうしたトヨタの課題を取り上げたニュースを、日本の新聞で読むことはまずない。それはなぜか。トヨタとその先代社長をモデルにしたと思われる小説、「トヨトミの逆襲」でその理由の一端がうかがえる。
「どの新聞も経済誌も、トヨトミ(小説中の自動車メーカー名)から大きな発表があるごとに、経済面を大きく割いて掲載する。ろくに検証もしない、ウラもとらない。とどのつまり提灯記事である、それが最大の広告主トヨトミへの『忠誠の証』なのだ」(梶山本、p9)。
・新聞が読者に必要とされる記事をきちんと載せない。そのために国の方向を誤る。これはかって日本がたどってきた道だ。
・日本が満州の錦州に軍事進出したとき(1932年)、当時のA新聞は、「平和の天使の如く旭日を浴びて皇軍入城す」と報道した(半藤本、p87)。こう書けば新聞は売れるし、国民は喜ぶからだ。
・半藤氏はさらに続けて、「ここで日本がぱっと戦争をやめて天皇がいう不拡大の大方針を守れば、あるいは国際的大事にならなかった」のではないかと述べている(半藤本、p87)。
・現代はネット時代になり、幸いにして情報源を日本の新聞やテレビに頼らなくても、世界のニュースを直に読み取れるようになった。このメリットを日本の将来策定に生かしたいものだ。e予測は、こうした仕掛けをシミュレータで実現しようとしている。
(参考)
・梶山三郎、「トヨトミの逆襲」、小学館、2019
・Tom McParland,"This is Why Toyota Isn't Rushing to Sell You an Electric Vehicle",Jalopnik,May 17,2023
・半藤一利、「昭和史」、平凡社、2004
・中島聡、,Life is Beautiful,2023年5月30日号
・NHK、”三菱自動車 中国EV拡大でエンジン車現地生産停止 226億円損失”、2023.04.25