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ChatGPTをめぐる議論

ChatGPTをめぐる議論

  2023.04.01

・ここのところ、ChatGPTをめぐる議論が盛んだ。

 

・テスラの創始者イーロン・マスク等が、GPTのようなAIの開発を6か月停止したらどうかと提案したり、投資銀行のゴールドマンサックスは、こうした技術が3億人以上の雇用に影響をあたえるという分析を発表した。

 

・こうしたときには、落ち着いて、プロの意見を聞いてみよう。本稿では、ジェミー・サスキンドのそれを取り上げる。彼は英国の弁護士で、”digital republic”の著者だ。

 

・この名前を聞いて、”アレッ?”と思った人はなかなかの事情通だ。彼は”仕事のない世界”(A World without Work)を書いたダニエル・サスキンドの兄弟だ。ダニエルの本にも、ジェミーとの議論がふれられているので、覚えている方もいるだろう。

 

・本題に戻るが、ジェミーは最近のAIの急激な進歩について、政治学者の視点から以下のように論じる。

 

 *最近のAIの進展に関しては、2つの意見がある。第一は、これは人類にとって危険な一歩であり、それに対する注意深いガバナンス(規制)が必要だというものだ。たとえばイーロン・マスク等の懸念がこれに該当する。

 

 *第二の意見は、AIは大技術革新であり、経済成長への寄与が期待できるというものだ。ジェミーは最近の英国政府の立場がこれに相当する。この立場からすれば、AIに余計な規制を掛けずに、そのポテンシャルをフルに活用すべきだということになる。

 

 *この2つの考え方は、対比的だが、ジェミーによれば、両者に受け入れられる形でAIを考える4つの論点が存在する。

 

 *第一に、AIに関する規制を特定の犯罪(例:ケンブリッジ・アナリティカ)と結び付けて議論せず、より広い角度から検討する。つまり各種のノイズに惑わされずにその持つ意義(シグナル)に目を向ける必要がある。

 

 *第二に、AIが人間に似ているかどうかを論じるのではなく、この技術がもたらす意味を冷静に分析する。たとえばAIが人間と同じ思考をするかどうかに注目するのではなく、将来AIが政治的論議に参加したとき、民主制はどうなっていくかに思いをはせる。

 

 *第三に、上の論点と関連するが、AIが政治的に関与したとき、言論の自由と民主制にどのようなインパクトがあるかをきちんと論じる必要がある。彼の言葉を使えば、「ディジタルは基本的に政治的だ」。

 

 *第4に、規制に関しては実効性を重視したらよい。上の二つの見方(AI開発の6か月停止、英国政府のAI立国論)はともにやや素朴過ぎる。AIに関する世界的規制がすぐに実現可能だとは誰も思わない。むしろこれを世代間にまたがる問題として論じていく必要がある。

 

・結局、今回のAI革新にたいして、われわれは全く新たな仕組み(立法、政治、制度)を模索していかざるを得ないというのが、ジェミーの論点だ。20世紀の政治は、人間活動がどのように国、市場、社会などによって影響を受けるかを論じてきた。21世紀のそれは、強力なディジタル・システムによって、人間活動がどのように影響を受けるかに焦点を当てる必要がある。

 

・以下は筆者の意見。プログラマーとして、またDeepLを含む各種のAIツールのユーザーとして、われわれは技術革新に関しては、まず使ってみるという現場的発想に立ってきた。

 

・翻って見れば、パソコンが入った時も、インターネットが普及したときも、このアプローチをとってきた。つまり技術革新の高波に乗りながら(たまにはそれに揉まれながら)、それが何をもたらすかを体で感じとってきた。それが、われわれ(e予測)のアプローチだ。”真実は現場にある”(マーク・レーナー:エジプト学)。

 

(参考)

・Jamie Susskind,"We need a much more sophisticated debate about AI",FT,Apr.1,2023

・Daniel Susskind,A World without Work,Metropilitan Books,2020

(邦訳あり)