リニア新幹線について
2023.03.25
・最近、森功氏の「国商」を読んで気になることがあった。この本は、安倍・菅両政権で大きな影響力を与えたJR東海社長の葛西敬之氏(1940-2022)を対象としている。
・森氏によれば、葛西氏は”国商”であるという。国商とは、「自ら進める事業や政治への介入が日本の国益になると信じて疑わない。しかし現実には当人の願いが本当に正しいのか、疑わしい」存在だ(森、p196)。
・ここで取り上げられている一例がリニア新幹線だ。これは東京と大阪を、リニアモータで結びつけることにより、1時間強で結ぼうというものだ。2011年に整備計画が決定された。
・当初は、JR東海が自社資金でこれを建設するとされていた。それがいつの間にか財政投融資を活用することになった(森、p240)。2016年、JR東海は鉄道・運輸機構に総額3兆円の財投を使った長期借り入れを申請した。それはなぜか。
・森氏によれば、これは当時の安倍首相がアベノミクスの景気浮揚策として、リニア新幹線投資を使いたいために行った提案の結果だという。
・しかしリニア新幹線をこうした政治道具に使うのは問題だ。まず第一にアベノミクスの景気浮揚策として役に立つかどうかは疑問だ。国民に対するアッピール効果はあるだろうが、東京オリンピック時代の新幹線建設と異なり、直接的短期的な投資効果はそれほど大きくはない。
・第二に、IT時代に超電導方式を用いたリニア新幹線がそもそも必要かという根本問題がある。エコノミスト橋山禮治郎氏などの議論にあるように、膨大な工事が必要で高コストのリニア新幹線に誰が乗るのかという疑問だ。特にコロナ禍の後テレワークが普及した現在、この論点は説得性を増す。
・森氏によれば、「リニア技術発祥の地ドイツやアメリカでは、すでに・・・(こうした)事業から撤退している」(森P252)。
・話は飛ぶが、こうした日本的課題に真正面から取り組んでいるのは小説家だ。相場英雄氏の「覇王の轍」を読むと、今日における新幹線拡張の意義がどこにあるか、改めて考えさせられる。
(参考)
・森功、「国商」、講談社、2023
・橋山禮治郎「リニア新幹線」、集英社新書、2014
・相場英雄、「覇王の轍」、小学館、2023