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シリコンバレー銀行の破綻に関して

シリコンバレー銀行の破綻に関して

    2023.03.18

・最近のシリコンバレー銀行(SVB)の破綻に関しては、フィナンシャルタイムズ紙の金融担当副編集長パトリック・ジェンキンスがうまくまとめている(以下その要約)。

 

 *2008年の金融危機から15年が経った。銀行システムの健全性はその時とられた各種の規制策によって盤石に思えたが、その期待は裏切られた。

 

 *おそらく今回の場合は、2008年のような金融危機の連鎖にはならないだろう。先週銀行株は大幅に下げた後、今週は少し落ち着きを取り戻している。

 

 *これはスイス国立銀行やFRBによる大胆な救済策によるものだ。

 

 *今回の場合、アメリカにおけるパニックの発端は、8大銀行以外の銀行によるずさんなリスク管理によって始まった。これはヨーロッパに波及するが、その場合のターゲットは、以前からとかく問題視されてきたクレディ・スイス銀行だった。

 

 *中央銀行は、インフレ退治に気を取られ、低金利による銀行の体力低下まで頭が回らなかった。

 

 *2008年の時と異なり、すでに金利は最低限まで下がり、政府債務の増加によりその支援は限られる。つまり今回のような金融変動に対する政府の対策はやや手詰まりの感がある。

 

・筆者の考えでは、今回の騒動の背景には、人々の現行システム(金融を含む)への信頼が、ウクライナ戦争やコロナショックを契機として、失われつつあることがある。この意味で、世界経済は安定期から変動の時代に入り始めている。

 

・話は日本に戻るが、本年4月に学者出身の新総裁が日銀に誕生する。ちょっと気になるのは、学者がこの難しい時期にうまく変動を乗り切れるかどうかだ。

 

・秀才学者の失敗例としては、ノーベル賞受賞者を集めたヘッジファンド(LTCM)の破綻がある(1999年)。失敗の発端はロシア国債の不履行だが、それを敏感に感じ取った現場育ちのバンカーの意見は、秀才たちによってにべもなくはねつけられたという(「天才たちの誤算」参照)。なぜ大変動に秀才は無能化するのか。それは彼らに本能的な現場感覚が不足しているからだ。

 

・小説家池宮彰一郎氏の名作、「島津奔る」に、名将が事のはじまりを予知するくだりがある(池宮、p15)。

 

 「近頃、かすかだが戦のにおいがする」

 

・学者は現場を知らないから、こうした感覚とは無縁だろう。IT革新が進んだ今日、変化のスピードは速い。こうした時代に、学者の持つ決まりきった枠組みで、現実経済を切り盛りできるかどうか。ちょっと疑問だ。

 

(参考)

・Patrick Jenkins,"Are banks on the edge of another 2008-style precipice?"<FT,March 18,2023

・Anna Maria Andriotis,Corrie DriebuschFollow,Miriam Gottfried,"シリコンバレー銀救えず、ゴールドマン致命的過ち",WSJ,2023.03.17

  "How Goldman's Plan to Shore up Silicon Valley Bank Crumbled"

・ロジャー・ローウェンスタイン 東江一紀/瑞穂のりこ訳 「天才たちの誤算」』 日本経済新聞社 2001年

・池宮彰一郎、「島津奔る」上、p15、新潮社、2021