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世界宇宙白書:2022年版に関して

世界宇宙白書:2022年版に関して

 2023.01.28

・世界宇宙白書2022年版が公開された。その内容をざっと見ていこう。なおこの白書の背景については、後に触れる。

 

・2022年の衛星発射は全部で186基、国別にみると、アメリカが78基で4割強を占め、次が中国で64基で3割ロシアが21基で1割。つまりこの3か国で全体の9割弱を占めている。ちなみに日本は1基である。

 

・186基のうち軌道に乗ったのは180基で成功率は97%。

 

・発射数を前年と比べると、2021年実績は146基だったから、約3割増しとなっている。

 

・発射主体別にみると、政府が82基、政府と契約した企業が21基、残りの83基が商用衛星となっている。これを見ても宇宙がビジネス空間になりつつあることがわかる。たとえばアメリカでみると、78基のうち61基がファルコン(Heavyを含む)となっている。ファルコンはご承知の通り、イーロン・マスク率いるスペースX社によるものだ。つまりマスクは電気自動車(EV)で世界をけん引しているだけではなく、宇宙空間でもすでに圧倒的な存在感を示している。

 

・衛星ペイロード(有効搭載量)でみると、合計1,029トンのうち、アメリカが698トン、中国178トン、ロシア67トンなど。

 

・宇宙デブリ(宇宙ゴミ)の数は2022年に26,281個で、前年の25,403個より若干増加している。

 

・以上がざっとした白書の内容だが、驚くべきは、この白書は役所が出したものではなく、個人がデータ収集して作成したものだということだ。作者のジョナサン・マクドウェル氏はアメリカのハーバード・スミソニアン天体物理センターに勤務している天文学者で天体物理学の専門家。

 

・この白書からは2つのことが読み取れる。

 

・第一は宇宙空間における日本の存在感の薄さだ。経済大国などと言っているうちに、この分野でも中国に追い越されてしまった。さらにアメリカや中国だけでなく、衛星発射で、インドは5基、韓国は1基を数えている(2022年)。日本の宇宙開発体制もそろそろ根本的に見直す時期が来たようだ。

 

・第二に読み取れるのは、IT革新時代にあっては、個人がここまでの仕事をやれるということだ。必要な専門知識と、データ解析能力さえあれば、これだけ立派な”白書”を個人が提供できる。

 

・我田引水になって恐縮だが、われわれも、世界各国のマクロ経済、産業構造、エネルギー需給、CO2排出量などをモデル化し始めている(日本、アメリカ、中国が完成済み)。データ可視化の時代にあっては、こうした仕事は役所や大規模研究機関より、プログラム能力のある個人グループの方が、早くかつ効率的に開発を進められる。IT革新に関して、日本が遅れをとるのは、中島聡氏がいうように、ITゼネコンの存在が大きいが、こうした膠着状態を個人の創意で打ち破ることこそが、日本の生きる道だろう。

 

(参考)

・Jonathan McDowell,"Space Activities in 2022",Jan.17,2023

・ナショナル・ジオグラフィック、「ロシアが人工衛星破壊 なぜ『無謀で危険な行為』ななのか」,2021年12月6日