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深部地熱の可能性

深部地熱の可能性

 2022.12.24

・最近海外では、クリーンエネルギーの一つとして深部地熱に注目が集まっている。

 

・深部地熱とは、10キロ以上の深度の井戸を掘り、そこから480度以上の蒸気を取り出し、タービンを回すことで電気を供給するシステムだ。MIT発のスタートアップ、クエイズ・エナジー(Quaise Energy)は、これを目的に発足した企業で、7,500万ドルを調達した。この会社は深度5キロから先はジャイロトロン(gyrotron)と呼ばれる電波発生装置で岩体を気化させ、時速5メートルで掘削することを目指している。これが実用化すると深部地熱は掘削場所を選ばないので、たとえば石炭火力発電所の横にこのシステムを構築することができる。深部地熱から得られた蒸気を利用すれば、石炭火力が再生可能エネルギー発電所に様変わりする。大体kw当たり2,000ドルを想定しているようだ。

 

・同様なスタートアップがヨーロッパでも発足している(GA Drillingなど)

 

・従来の地熱発電は、3キロ程度の深度にある地下の熱水貯留槽から蒸気を取り出そうとするものだった。しかし今スタートし始めているのは、新技術を使った深部地熱の活用だ。

 

・このニュースを読むと、真山仁氏の小説、「マグマ」を思い出す。今手元に見つからないので、詳しいことは言えないが、この小説のテーマは高温岩体発電だった。これが将来の日本のエネルギー問題を解決するというのだ。

 

・では地熱発電の専門家はこれをどう見るか。実は面白そうな対話が真山仁氏と日本地熱学会とで行われていた。この小説「マグマ」をめぐって、専門家と真山氏が対談を試みたのだ。しかしその内容は期待外れだった。真山氏の主張に対し、地熱の専門家が、たとえば「それはありえない、その理由は・・・・」などと言ってくれれば、専門外のわれわれにも役立ったろう。しかしそこで行われていたのは、”紳士的な”交歓会で、身になる議論は見受けられなかった。残念なことだ。

 

・最初の深部地熱発電の話題に戻るのだが、日本の場合、せっかく地熱発電に携わりながら、外国のスタートアップのように、新たな発想(たとえば深部掘削にジャイロトロンを使う)でこの問題に取り組む姿勢がないために、新技術で世界のリーダーとはなりえていない。少し昔の話だが、同級生が電力会社の技術畑に転職した。彼が言うに、電力関係の技術者は保守的で、新たな問題に取り組む姿勢がない。これは一つは彼らの第一任務が電力の安定供給だからだろう。しかし冒険心がないと、大きなブレースルーを自ら開発することはできない。こうしたことが、日本のエネルギー供給構造の大転換を妨げているのかもしれない。

 

(参考)

・Benoit Morenne,"'Deep Geothermal' promises to let drillers go deeper,faster and hotter",WSJ,Nov.22,2022

 「地熱発電普及の鍵『深部地熱』開発に投資マネー」

・真山仁、「マグマ」角川,2009

・日本地熱学会、「小説『マグマ』をめぐる真山仁さんとの対話」、2006.11.21