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温暖化問題:温度上昇1.5度を超える可能性

温暖化問題:温度上昇1.5度を超える可能性

 2022.05.29

・温暖化防止をめぐるパリ協定(2015)では、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて1.5度Cに抑えることが長期目標とされた。日本もこれを批准している。

 

・これに関して、本年4月に発表されたIPCC(国連・気候変動に関する政府間パネル)報告書では、2025年にGHG(温暖化ガス)排出量をピークとし、以降削減しなければ、目標達成は難しいとされている。

 

・この問題に関して気になるレポートが最近WMO(世界気象機関、国連の専門機関の一つ)から出された(Global Annual to Decadal Climate Update)。

 

・それによると、今から2026年までの間に、地球の平均気温が1.5度を超える確率は5割程度になったという。つまりレポートは、予想以上に温暖化は進行し、平均気温1.5度を数年以内に超える可能性があると述べている。そうだとすれば、長期目標(1.5度未満に抑える)がすでに達成されない可能性が高まっている。

 

・ちょっと原理的なところに戻るが、なぜ1.5度目標が重要かというと、それが温暖化問題のティッピング・ポイントだからだ。ティッピング・ポイントとは、閾値とも言い、それを超えると事態が急変する値のことだ。論理的に言えば、これを超えると、ポジティブ・フィードバックの出現、ヒステリシス効果を持つ位相転換、解の分岐などが発生し、それ以前とは全く別な状況が出現する(詳しい内容はLenton etalを参照されたい)。

 

・温暖化問題でのティッピング・ポイントはグリーンランド氷床の融解、北極の海氷の融解、アマゾンの樹林帯の崩壊などがあげられている。

 

・もちろんティッピング・ポイントがあっても問題ないという議論もある。たとえば経済学者のノードハウスは彼のモデルにティッピング・ポイントを組み込んだモデルを作成し、その計算結果から楽観論を主張する。

 

・ただしこの議論には問題がある。それはモデル自体が将来のことがわかり(経時的な最適化モデル)、かつ温暖化問題の被害を抑え込める(効用関数の想定)という前提のもとに作られているからだ。筆者としては、今回のWMOの警告は、まじめに考えた方がよいと思う。

 

・ではどうすればよいか。エネルギー専門家は、これに対する対策として、エネルギー・システムのグリーン化を考えがちだ(グリーン水素など)。しかしこのやり方は、特に日本にとっては問題がある。それはウクライナ戦争を契機として世界はディス・グローバルの時代に入りつつあり、その場合大量のグリーン水素を(たとえば中東から)日本まで無事に運ぶことが、難しくなりつつあるからだ。

 

・とすれば、温暖化問題は、エネルギー・システムにる対応だけでなく、経済構造自体の変化によって対応していくしかない。少し結論を急げば、それはIT革新の力を用いることで可能になる。もちろんこうすることによって既得権益層は大きな痛手を受けるかもしれない。しかしそれは変革のためのコストだろう。

 

・話は飛ぶが、当方のe予測:CO2_2050は、この可能性を計算している。計算パートはすでに完成し、現在データ可視化をプログラム中である。それが完成した時点で、ウェブアプリの形で、結果を示していきたいと考えている。

 

・Leslie Hook,"World on course to breach 1.5C warming threshold wifhin five years",WSJ,2022.05.10

・WMO,"WMO update:50:50 chance of global temperature temporarily reaching 1.5C threshold in next five yeras",May,9.2022

・WMO,Global Annual to Decadal Climate Update,May,9.2022

・W. Nordhaus W; Economics of the disintegration of the

Greenland ice sheet, PNAS, 116(25) (2019), pp.12261-12269. 

・Lenton T.M.,Held H.,Kriegler E.,Hall J.W.,Lucht W.,Rahmstorf S.,”Tipping elements in the Earth’s climate system”,PNAS,Feb.12,2008,vol.105,no.6

・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第3作業部会報告書、2022.04.04、AR6,WG3

https://www.meti.go.jp/press/2022/04/20220404001/20220404001.html