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イーロン・マスクのスターリンクに関して

イーロン・マスクのスターリンクに関して

  2022.04.10

・最近イーロン・マスク氏率いるスペースXが打ち上げた衛星38基が磁気嵐のために墜落した。これを最初に報じたのはBBC(英国放送協会)だったと思う。

 

・衛星はなぜ墜落したか。これに関して原因究明の論文が片岡龍峰氏(国立極地研究所准教授)によって書かれた。

 

・その原因は、①太陽表面での大規模爆発によって生じた磁気嵐が、当初の見立てでは地球直撃するはずではなかったのが微妙なコース取りで地球に影響を及ぼしたこと、②太陽爆発の程度から大した磁気嵐が起こらないという想定の誤り、によるものだという。

 

・この磁気嵐によって大気が熱せられ、大気密度が予想より濃くなったために、衛星に対する空気抵抗が増し、これが衛星の墜落につながったようだ(マスクの衛星は地球低軌道:LEOに打ち上げられるため大気密度の影響を受けやすい)。

 

・それにしても驚いたのは、宇宙天気予報という分野がすでに確立していることだ。考えてみれば、これだけ方々で衛星が打ち上げられているのだから、その安全を図るために”宇宙天気予報”が出されるのは、当然ともいえる。

 

・話は飛ぶが、スペースXはすでに1600機以上の衛星を打ち上げている。これを使ったスターリンク・システム(インターネット利用)はすでに稼働中である。アメリカなどではベーター版のサービスが始まっており、日本でもKDDIがサービスを提供するとされている。

 

・その有用性は、ロシアに侵略されたウクライナでの通信維持に使われことで、人々の注目を集めた。

 

・これに負けじと、この分野に参入するのがアマゾンだ。同社は、最近アリアンス(欧州のロケット打ち上げグループ)や自身のブルーオリジンなどと結んで3,200機以上の衛星打ち上げ計画を発表した。今やインターネット接続をめぐる争いは、その場を宇宙にまで広げている。

 

・ちょっと残念なのは、日本の現状だ。スペースXの向こうを張って開発中のH3ロケット(JAXAと三菱重工業の開発、従来より大幅なコストダウンを目的)の打ち上げが再延期されたという(2022年1月21日)。どうもエンジンのターボポンプの具合がよくないらしい。

 

・世界は、すでに衛星を使ったインターネットの時代に入りかけている。日本でも遠隔地では、こうしたシステムを利用した方が安上がりで、スピードも出やすい。この分野でも日本技術の出番はなさそうだ。そろそろ日本型システム(政治+役人+大企業)の全取り換えが必要な時期かもしれない。そうでないと、経済だけでなく、技術でも世界に置いて行かれてしまう。

 

(参考)

・BBC,"SpaceX loses 40 satellites to geomagnetic storm a day after launchi",FEb.10,2022

・Gigazine,「なぜStarlink衛星の墜落を引き起こした磁気嵐は予測できなかったのか」、2022年、3月28日

・片岡龍峰、「スターリンク衛星38機の墜落について」、2022年3月26日

・Ryuzo Kataoka,"Unexpected space weather cusing the reentry of 38 Starlink satellites in Feburary 2022", submitted to Journal of Spacec Weather and Space Climate

・WSJ、「マスク氏、衛星使ったネット利用巡りウクライナ政府に助言」、2022年3月3日

・Micah Maidenberg,"Elon Musk Offers Ukrainians Tips to Keep Satellite Internet Service Up in Wartime",WSJ,March 2,2022

・Dave Lee,Peggy Hollinger,"Amazon inks deals to send its internet satellites into space",

・Andy Bounds,"EU takes SpaceX and Amazon with its own satellite internet system,FT, Feb.16,2022"