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ウクライナ2題

ウクライナ2題

  2022.03.27

・ロシアによるウクライナ侵攻は1か月経っても終結の見通しが立たない。関連する2つの話題を取り上げる。

 

・第一は、この戦争におけるNATOの関与だ。前回のブログ(2022年3月23日)では、ガスパロフ(ロシアのチェス名人、民主化運動に邁進し、亡命)の意見を取り上げた。彼はこの戦争を終わらせるためには、NATOの直接参戦しかないと述べた。プーチンが信じるのは力だけだからだ。

 

・フィナンシャルタイムズのコラムニスト・マーチン・ウルフは同趣旨の意見を展開している。彼の意見は以下の通り。断っておくが彼は右翼でもなく、反共強硬派でもない。

 

 *私(マーチン・ウルフ)は、NATOが戦争準備に入らざるを得ないという意見に傾くようになった。

 

 *人道的にみても、ロシアは非戦闘員や民間施設(女性、子供、病院など)を攻撃している。これはたまたまではなく意図的なものだ。彼の目的が、ロシアは非情であることを示し、相手の士気をくじくことにあるからだ。

 

 *ロシアはウクライナを屈服させるまで戦争をやめないだろう。プーチンがスターリンの賛美者であることを忘れてはならない。スターリンが何百万人のロシア人を虐殺したのは歴史的事実だ。こうした国に、ウクライナが屈服させられるのを西側は座視することはできない。

 

 *ロシアに対する経済的制裁は、プーチンとその取り巻きには大した影響がなく、むしろロシアのリベラルな中産階級にインパクトが大きい。ロシア自体は天然資源を持ち、中国との連携を保つことで生き残る。

 

 *NATO参戦に対する、一つの反対理由は、核戦争の危険だろう。たしかにその危険はあるが、プーチン自身が臆病である(コロナを恐れて側近を6メータ以上近づけない)ことを考えれば、自分が死の危険にさらされるのは好まないだろう。大事なのは、核リスクを恐れることで、その危険を最小化することはできないことだ。

 

 *プーチンがこの戦いに勝てば(おそらくそうなるだろう)、また次の侵略が始まる。それは今回より厳しいものになる。次の標的はバルチック諸国だろう。

 

・ウクライナ戦争の第二の論点は、食料に関してだ。ウクライナとロシアは、小麦、大麦、メイズ等の世界最大の輸出国だ。

 

・そのシェアは(2019年)、菜種油で64%(ウクライナ42%、ロシア21%)。小麦で23%(ウクライナ8%、ロシア14%)、大麦(ウクライナ10%、ロシア10%)、メイズ(ウクライナ16%、ロシア2%)などである。

 

・主な輸出先は、中東とアフリカ諸国だ。この戦争により、これらの国で食料価格の上昇が起こるだろう。2008年に小麦の値段が急上昇したときには、ブルキナファソ(西アフリカ)では食料をめぐり暴動が発生した。今回の戦争は、アフリカ、中東の政治情勢を不安定化させる可能性が高い。

 

・以上、ウクライナ戦争に関するトピックを2つ取り上げた。日本にとって、これは遠い国の出来事ではない。IT時代の今日、世界は狭くなっている。われわれもこれを自分の問題としてとらえる必要がある。一つできるのは、途上国への食糧援助だろう。

 

(参考)

・Martin Wolf,"Columnist Exchange:should Nato become engaged in the war in Ukraine?",FT,March 25,2022

・Hannah Richie,"How could the war in Ukraine impact global food supplies?",Our World in Data,March 24,2022

・Alison Bentley,"Avert global crisis due to invasion of Ukraine",Nature,Vol.63,24March,2022