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ウクライナ戦の行方

ウクライナ戦の行方

   2022.03.23

・2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、先が見えない。

 

・フィナンシャルタイムズの名物コラムニストであるジリアン・テットがロシア生まれのガルリ・カスパロフとの対話を通じて大事な点を浮かび上がらせている。

 

・ガルリ・ガスパロフはチェスの名人で世界チャンピオンを15年続けたことで有名だ。かれは2005年にチェスのトーナメントから引退し、その後ロシアの民主化運動に従事し、プーチンと対立した後2013年に西側に亡命した(ウィキペディアによる)。彼はチェスの名人だから相手の心理を読むのがうまい。それに加えてロシアの実情をよく知っている。この意味で、彼の意見は貴重だ。

 

・以下ジリアン・テットの回想から。

 *数年前、彼女はガスパロフを自宅(ニューヨーク)の夕食に誘った。そこにはアメリカの政治家や銀行家などが同席した。

 

 *その席上、ガスパロフはプーチンはどんどん独裁化しており、西側から決別し、結局ウクライナのような隣接国に攻め入るだろうと述べた。

 

 *しかし他の列席者は、そんなことはありえないと言い、口論は激化した。その場を鎮めるため、ジリアン・テットは話題を政治からチェスに変えざるをえなかった。

 

・今から考えると、ガスパロフは事態を正しく予測していた。ジリアン・テットは先週ガスパロフと電話で話したが、そのとき彼は数年前の夕食のことをよく覚えていた。「私は西側の人たちがこうした警告を聞きたがらないのに驚いた。・・・私はロシアで育ち20世紀に何が起こったかを知っている」。

 

・ではなぜ西側の人たちは、ガスパロフの警告を聞き入れなかったのか。一番の問題は西側のビジネス・エリートでロシアと商売をしている人たちだった。彼らはプーチンがこのような暴挙に出ることを全く予期していなかった。

 

・ガスパロフは、西側の人間は資本主義のエトスにおぼれ、政治は利潤動機で動くと考えていると言う。20世紀におけるロシアの崩壊はこの信念を強めた。このためプーチンがナショナリストとしての演説を行い、クリミアを併合しても西側は目が覚めなかった。

 

・では今後はどうなるか。ガスパロフの見立ては以下の通り。

 

 *プーチンは迅速なウクライナ併合に失敗した時点で、この戦争に負けている。この戦争はウクライナ側がクリミア併合地を返還してもらうまで、終わらないだろう。

 

 *しかしその代償としてウクライナ側が支払うものは現時点で明確ではない。早めに戦争を終わらせる一つのやり方はNATOがウクライナ上に飛行禁止区域(no-fly zone:NFZ)を設置するか、直接参戦することだろう。なぜならプーチンは力しか信じないからだ。

 

・こうしてみると、ウクライナ戦は、難しい段階に入ったといえる。ちなみに激しい戦いになると思われたサイバー空間戦もそれほど進んでいない。しかしある段階で、物理的な施設の破壊(ダムや原発の破壊)に進むかもしれない。

 

・日本に戻るが、この戦いを遠い国の災難としてみるのは危険だ。世界情勢は21世紀に入ってロシアと中国対西側民主国という対立枠がはっきりしてきている。これに中東情勢が加わるとどうなるか。日本は、第二次大戦後、80年弱にわたって平和を享受してきた。この幸せな時代は終わりかけている。今こそ、見識に富んだ指導者(たとえば大正期の政治家、原敬のような人)が求められている。

 

(参考)

・Gillian Tett,"Why I should have listened to Garry Kasparov about Putin",FT,March 17,2022

・Elizabeth Gibney,"Where is Russia's cyberwar? Researchers decipher its strategy",Nature17,March,2022