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COP26と温暖化問題の行方

COP26と温暖化問題の行方

   2021.11.20

・COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)は11月中旬に終了し、その成果をめぐってさまざまな議論が交わされている。

 

・ここではジュリアン・アルウッド教授(Julian Allwood、ケンブリッジ大学)の主張を取り上げる。彼は金属の専門家で、物質の効率的利用を通じた気候変動対応策を検討している。つまり概念的な環境主義者ではなく、現実に基づいた議論ができる学者ということだ。

 

・こうした現実主義者にしては、その主張は厳しい。彼は温暖化対策として3つの手段を取り上げる。第一は、CO2ガスを排出しない発電(再生可能エネ、水力、原子力:nelectricity)、第二はCCS(二酸化炭素回収・貯留技術、Carbon caputre & storage)、そしてバイオマスである。

 

・彼は、この3技術に関して現在の利用状況とその開発スピードを調べた。それによるとCO2ガスを排出しない発電は現在4kWh/日・人であり、その年率伸び率は0.1Wh/日程度。しかしCOP26が必要としている伸びは32(16-48)。CCSに関しては,現在6KG/人・年。COP26が必要としているのは3,600(1,400-5,700)、バイオマスに関しては、現在われわれは農業から食料として、一人当たり100KGバイオマス/年を得ている。しかしバイオマスで航空燃料を賄うためにはさらに200KGを必要とする。

 

・つまり28年後までにゼロ排出量を実現しようとすると、現在の削減技術の進展スピードでは全く間に合わないというのが、彼の結論だ。

 

・たとえて言うと、3か月で家を建築してもらうという契約を建築家と結んだとする。しかし実際の作業に携わる大工や左官、電機屋に聞いてみると、それぞれ仕事が混んでいるので、とても3か月では仕事が終わらないという。つまり建築家の見積もりは現実ばなれしているということになる。これでは注文主は怒るだろう。

 

・しかし環境団体などが、新聞等を読む限りこの点を厳しく指摘しているようには思えない(当方の情報不足であれば、あらかじめ謝っておく)。彼らはアルウッド教授の指摘にどう反応するだろうか。

 

・アメリカの環境運動家バリーコモナー(1917-2012)がこれに関して興味ある指摘をしている。

 

「環境をめぐる政治にもハードパスとソフトパスが存在する。ソフトパスは安易な道だ。生産に関する意思決定は私企業の手にゆだね、結果として現れた影響だけを規制しようとする・・・一方ハードパスは困難な道である。環境破壊の真の原因である技術選択に立ち向かい、だれが何のためにそれを支配すべきかを議論する。政治のハードパスこそ、環境のソフトパスに通じる唯一の道なのである」(P152)

 

・つまり環境団体が真の成果を挙げるためには、企業や政府に寄り添うのではなく、それとは独自の立場をとり、企業や政府に対案を示していかねばならないというのがコモナーの主張だろう。これが今必要なことではないだろうか。

 

・バリーコモナーの訳本には少し思い入れがある。訳者の松岡信夫氏は市民エネルギー研究所の創設者であり、この本の翻訳が最後の仕事になった。同研究所の安藤氏によると、松岡氏は生前「環境問題をお祭りにするのは危険だ」と述べていたようだ。

 

・ケンブリッジの実務的な工学者が「今のままでは、COP26が掲げる目標はまず達成しないよ」と警告している。これに対して環境専門家はどうこたえるのだろうか。

 

(参考)

・Julian Allwood,"Technology will not solve the problem of climate change",FT,Nov.17,2001

・Julian Allwood,"The solution sptace discussed at COP26 is unrealizable:comparing supply and demand for the three zero-emissions resources",FT,Nov.16,2021

・バリー・コモナー、「地に平和を」、松岡信夫訳、ダイアモンド、1994

 Barry Commoner,Making Peace with the Planet,Pantheon,1990