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テスラの躍進と半導体不足

 テスラの躍進と半導体不足

  2021.10.24

・テスラの2021年第3四半期決算が発表された(10月20日)。他の自動車メーカーが10月から11月にかけて半導体不足による減産を続けているのを横目に、テスラは躍進を続けている。

 

・テスラの2021年第3四半期の生産台数は23.8万台で、これは前期の15%増しである(20.6万台)。また前年比では64%増し(2020年第3四半期の生産台数は14.5万台)となっている。

 

・これによって今期の売り上げは120.6億ドル、純利益16.2億ドルに達した。ちなみに前期の売り上げは102.1億ドル、純利益は11.4億ドル。こうした好業績を背景として株価は900ドルを超えた(2021年10月23日現在)。

 

・他の自動車メーカーが半導体不足による減産に直面しているのに、なぜテスラだけが増産できたのか。これを解くカギがモルガンスタンレーの花形自動車アナリスト、アダム・ジョナスによるレポートだ(その存在は中島聡氏のブログ、life is beautifulで教えられた)。

 

・アダム・ジョナスは、前期の決算発表におけるイーロン・マスクの発言に注目する。マスクは半導体不足に対処するため、「代替的なチップを探し、さらにそれに適合するようソフトの書き換えを行った」と述べている。

 

・ジョナスは、さらにテスラの特徴として、①基本的にソフト屋であること、②チップも内製化できるため、チップメーカーへの依存が少ないことを指摘している。サプライヤーである半導体メーカーは、テスラがこの分野のプロであることを知っており、同社との関係維持を最優先する傾向がある。

 

・話は飛ぶが、テスラの躍進を見て、長篠の戦(1575年)を思い出した。この戦いは、新興の織田信長が、旧来の名門武田勝頼を破り、天下人としての地位を確かなものにしたことで知られる。信長は足軽の鉄砲隊を組織して、勇猛で名高い武田の騎馬武者を、次々に打ち取った。信長は鉄砲という新しい道具をうまく使って、古い伝統から抜けられない武田軍勢を圧倒した。

 

・話は現代に戻る。このブログで何度も指摘しているように、現在われわれはIT革新のさなかにある。それを活用できる企業とそうでない企業との間で、格差が急速に開きつつある。企業構造を基本的に変えられない自動車メーカーは、このままでいくと「iPhoneモーメント」を待つしかないのかもしれない。ちょっと嫌味を言えば、長篠の戦の武田軍団だ。

 

・ちなみに、「iPhoneモーメント」(Patrick McGeeによる)とは、ケータイがiPhoneの登場で、一挙に変わったように、自動車がIT革新によって、一挙に優劣が変わることを意味する。今の日本経済は自動車頼みだ。これが武田軍団ではないが、一挙に倒れたら、その時の負のインパクトは想像をこえるものがある。

 

(参考)

・Tesla,Q3 2021 Update,Oct.20,2021

・Tesla Q2 2021 Earnings Call Transcript;July 26,2021

・Steven Loveday,Morgan Stanley:How Tesla 'Found Chips'

to break delivery Records,Insideevs,Oct.05,2021

・日経新聞、「テスラ、半導体不足かわす」、2021.10.23

・日経新聞、「日産、世界生産3割減」、2021.10.22

・Patrick McGee,”Can Germany survive the’ iPhone moment’ for cars?”,FT,Oct.23,2018