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オリンピックの経済効果

オリンピックの経済効果

  2021.06.13

・オリンピック開催と聞くと、なんとなく経済メリットがありそうだ。これには我々の過去体験が効いている。前回の東京オリンピック(1964年)のときは、東海道新幹線が開通し、首都高速も整備され、一挙に社会インフラの整備が進んだ。これは日本経済のその後の発展にプラスに働いた。多くの日本人はオリンピックに関してこの印象を持ち続けている。だからといって今回のオリンピック開催(2021年7月)が、経済的に正当化されるわけではない。

 

・50年前の日本は、高度成長を遂げたばかりで、これから世界に打って出ようとしていた。オリンピックはその起爆剤となった。これに対し、今の日本は、成熟した先進国として、長期停滞(失われた20年)から抜け出せない。この停滞を打ち破るのに、オリンピックは役立つだろうか。

 

・アメリカのバーデ、マセソン両教授の論文によれば、おそらくそうはならない。

 

・彼らは、オリンピック開催の費用と便益をまず明らかにする。主たる費用は、①インフラ建設(輸送施設、滞在施設など)、②競技場の建設、③オリンピックの運営費用である。

 

・他方で、便益は、①海外からの観客誘致(短期的便益)、②オリンピック開催の実績で国の評価が上がることによる海外投資などの増加、③無形の便益(人々の誇りを高める)などである。

 

・こうした費用と便益を比較した上での、彼らの結論は、①ほとんどの都市にとって、オリンピック開催は割に合わない、②特に途上国の都市にとってマイナスは大きいというものだ。

 

・まず第一に、インフラ建設だが、IOCは夏季大会のため、最低ホテルを4万室(観客用)、オリンピック関係者のために1.5万人用のオリンピック村設置を要求する。こうした施設は、オリンピックのピーク需要を賄うには適するが、終了後は過剰施設となる。たとえば1994年冬季大会のリハンメル(ノルウェー)では、大会終了後4割のホテルが破産した。

 

 第二に、オリンピック競技場だが、フットボールやサッカー競技場は一般にフルサイズのオリンピック競技場には適せず、別途建設が必要になる。また開催費用に関しても、テロ攻撃(1972年のミュンヘン、1996年のアトランタ)などを考慮すると高くつく。しかしこうした費用実績はあまり公開されない。たとえば長野オリンピックでは(1998年)、費用に関する資料の一部が焼却された。

 

・一般にオリンピックの経済効果はプラスであるという報告が、特に開催前には発表される。しかし経済学者が行った事後的分析によると、経済効果はほぼゼロという結果になる(同論文の第4表参照)。

 

・開催前の分析がプラス効果、事後的な分析がマイナスかほぼゼロとなるのは、なぜだろうか。

 

 *事前分析は、分析の注文主が開催主体であることが多く、分析機関はプラス効果という結果を求められる。

 

 *事前分析では、”代替効果”が無視されている。すなわち開催都市住民はオリンピック観覧券購入のために、他の支出を減らす。またクラウド・アクト効果(オリンピック開催中は住民が逃げ出す)も考慮に入れる必要がある。

 

 *そうしたことから、事前分析では乗数効果が高く見積もらすぎている。しかし2000年のシドニーオリンピックに関するCGE分析では、むしろ支出の減少が見出された(Giesecke & Madden,2011)。

 

・さて以上の条件にコロナショックが加わるとどうなるだろうか。海外からの観客は呼び込めない。国内でも、とくに東京の人々は、オリンピック開催中は逃げ出すことを考えている。この状況下で、オリンピック開催を強行する経済的意味は、あるのだろうか。

 

(参考)

・Robert A.Baade and Victor A.Matheson,"Going for the Gold:The Economics of the Olympics",Journal of Economic Perspectives,Vol.30,Number2,2016