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テスラの行き方と在来型自動車メーカーの将来

 テスラの行き方と在来型自動車メーカーの将来

 2021.03.07

・滝本大輔氏は、「WIRED」日本版の副編集長である。彼が自らのテスラ3購入体験記を「WIRED」に記している。これはなかなか面白い。

 

・滝本氏は2020年11月にテスラ3をワンクリックで注文した。

 

・その体験記で興味を引いたのは、テスラから彼に届いた一通のメールだ(2021年2月17日)。それには、「ご注文の変更を承りました」と書いてあったという。彼は注文変更した覚えはないので、メールの意味をテスラに確かめると、「モデル3を大幅値下げした」という連絡だった。その値下げ額は、最大156万2千円にもなるという(ロングレンジAWDグレードの場合)。彼の注文した「スタンダードレンジプラス」では値下げ額は82万円だそうだ。それにしても結構な金額だ(511万円が429万円に値下げ)。こうした値下げが、既存の注文にまで適用されたというのがメールの趣旨だそうだ。しかもテスラから、これに関して公式発表はない。従来の自動車メーカーにとっては、テスラのこのやり方は想定外だろう。

 

・値下げが可能になったのは、上海工場の本格稼働とリチウムイオン電池の価格低下(上海工場の電池はCATLとLG化学から調達)によるものだそうだ。ちなみにテスラの株主報告書には上海工場が紹介されている(Tesla,Q3 2020 Update)。これを見ると、アメリカのフリーモント工場(既存施設を購入して改装)にくらべ、上海工場のレイアウトは実にすっきりしており、生産性の高さが理解できる。

 

・日本向けテスラ3はこの上海工場から出荷されるようだ。スマフォなどと同じく自動車までが中国製になったことに、時代を感じさせる。

 

・今回のテスラ3の改良は、バッテリーだけでなくヒートポンプの搭載により、エアコンの電気消費量を減らし、バッテリーの温度管理の最適化を図ったことだという。こうした改良の積み上げが走行可能距離の延長につながる。

 

・この体験記を読んで気づいたのは、テスラが在来媒体(新聞やテレビ)を広告宣伝に使っていないことだ。既存の自動車メーカーだったら、こうした値下げはまず新聞発表し、さらにテレビコマーシャルなどでジャンジャン宣伝を行うだろう。テスラはそうしない。この分がコストカットにつながるというものだ。

 

・これは(最近はやや変わったが)アマゾンやグーグルにも通じる。ちなみにトヨタの年間広告宣伝費は約4,700億円となっている(2020年3月期、有価証券報告書による)。

 

・テスラはそうした戦略を取らない。それはユーザーが自分で、ユーチューブなどでテスラ車の宣伝をしてくれるからだ。また社長のマスクが、ツイッターでさまざまなことをしゃべるのも大きな宣伝になっている。

 

・こうしてみると、既存の自動車メーカーにとっていよいよ難しい時代が来たことを感じさせる。それは在来型メーカーがテスラの行き方を真似ることが構造的に難しいからだ。

 

・この点はウォールストリートジャーナル紙の「VW『打倒テスラ』の取り組み、なぜつまずいたのか」がうまくまとめている。この記事はフォルクスワーゲンが対象だが、ここに書かれていることは、日本の自動車メーカーにもそのまま当てはまる。

 

・以上みてきたように、クルマのEV化と自動運転化は、既存の自動車メーカーに自己変革を余儀なくさせる。変革を遅らせ、現状維持でも何年かは持つだろう。しかしこのブログの冒頭に示したように、テスラ車のユーザーは徐々に増えつつあり、彼らがその体験記を様々な場で発表し始めている。これには広告費が必要ない。従来型の記者発表、有名俳優を使ったテレビコマーシャルではこうした動きに対抗することは難しい。

 

(参考)

・滝本大輔、「生粋のエンジン好きが、テスラ「モデル3」をポチって見えてきたこと:連載・フューチャーモビリティの現在地(1)」、WIRED、2021.02.14

・同、「フューチャーモビリティの現在地(2)」、WIRED、2021.02.23

 

・Tesla,Q3 2020 Update,Oct.21,2020

・William Boston,"VW「打倒テスラ」の取り組み、なぜつまずいたのか」、WSJ、2021.01.25 ,"How Volksawgens's #50 Billion Plan to beat Tesla Short-circuited"