リチウム電池の急進展
2021.02.13
・最近になってリチウムイオン電池の技術的開発が急加速している。
・リチウム電池のコスト削減の急所は負極(anode)の材質だが、かなり明るい目途がついたようだ。これに関するイノベータとしては、Sila Nanotechnologyが有名だが、それについてはすでに当ブログで触れた(2020.12.20)。それとは別に、カーネギー・メロン大学のベンカット・ビスワナタン准教授が数年後に1kwhあたり80ドルまで下がる技術を実現化したようだ。現在そのコストは125ドル/kwh程度だから、これは大きなブレークスルーといえる。
・彼はインド生まれの秀才で、現在34才。2020年にはMITテクノロジーレビュー誌の”35歳以下のイノベーター”に選ばれた。彼は負極(anode)に黒鉛の代わりに純粋リチウムを使う手法を開発した。従来その利用は、リチウムイオンが蓄積するにつれて針状の結晶ができ、これがバッテリーのショートを引き起こすので、無理といわれてきた。彼はその課題を電極間にポリマー・セラミックのセパレータを配置することで解決したようだ。
・よくエネルギーの分野でいわれるのは、コストが下がらないと新素材や新エネルギーは導入されないという議論だ。しかし現実に起こっているのは、その逆だ。まずニッチな市場で、コスト高だが便利な部品として導入が始まり、生産量の拡大につれてコストが低下するにつれ、市場が広がっていく。リチウムイオン電池に関して言えば、このプロセスは、まずノートパソコン向けの電池としてはじまり、スマフォの電池に使われ、そして今やEV(電気自動車)の主力電池となっている。
・EV(電気自動車)に関して言えば、リチウムイオン電池を使ったテスラのロードスターが登場したのが2008年だから、この10余年の進化には目を見張るものがある(当時のコスト推定値は1,000-1,200ドル/kwh程度、ボストンコンサルティング・グループによる:WSJの記事より)。
・リチウムイオン電池は、今や電力需要の制御にも使われ始めている。フロリダ・パワー&ライト社はリチウムイオン電池を使った大規模な電気貯蔵装置の建設を発表した(Manatee Energy Storage Center)。これはソーラー発電と組み合わされ、その規模は900mwh(90万kwh)。33万世帯の電力を2時間賄うことができる。同社はこれによって脱化石燃料発電を目指している(同社プレスリリースより)。
・こうしたことを背景に、電力の再生可能エネルギー依存への動きは世界各国で始まっている。注目すべきは遠隔送電の実現だ。オーストラリアの電力をアセアン諸国に供給するオーストラリア・アセアンパワーリンク(AAPL)はその典型だ。オーストラリア北部に10GW(1,000万KW)の太陽光発電所を設け、その電力を750キロ離れたダーウィンの電力貯蔵施設に送り、それをさらに3,700キロ離れたシンガポールに高圧直流(hvdc)ケーブルで送ろうというものだ。これはシンガポール電力の2割を賄えるという(Newsweek、松岡氏の記事による)。
・リチウムイオン電池革新をきっかけとして、世界のエネルギーシステムは大きく変わり始めている。残念ながら、そこに日本のリーダーシップは見られない。
(参考)
・Russell Gold and Ben Foldy,「リチウムイオン電池、世界をパワーアップへ」WSJ,2121/02/09
"The Battery is ready to power the world"
・FPL(Florida Power & Light),"FPL announces plan to build the world's largest solar-powered battery and drive accelerated retirement of fossil fuel",News releases,Mar.28,2019"
・松岡由希子、「オーストラリアで太陽光発電し、シンガポールに送電するプロジェクトが進行中」、Newsweek,2020.10.23
・当ブログ、「リチウム電池の将来性」、2020.12.20