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テスラのバッテリー・デイに関して

テスラのバッテリー・デイに関して

  2020.12.27

・イーロンマスクは2020年9月22日の株主総会で、バッテリー・デイというプレゼンを行った。

 

・これはリチウムイオン電池の将来的な改良に関するロードマップを示したもの。内容がやや技術的すぎるため、あまりマスコミの反響を呼ばなかったが、内容そのものは示唆に富む。

 

・第一に企業の責任者(CEO)がリチウム電池技術の最先端を熟知し、その改良への道を明らかにしたことが、このプレゼンから見てとれる。これは、IT時代の経営者のあるべき姿だ。

 

・第二に、このプレゼンは単なる技術解説にとどまらず、将来社会に対するマスクのビジョンが明快に示されている点で興味深い。以下内容に触れる(注としてあるのは、筆者のコメント)。

・TWH=10^12Wh=10^9KWh=10億KWh。

・GW=10^9W=10^6KWH=百万KW。

 

(導入部:プレゼンの1-5ページ)

 

・マスクの将来ビジョンとこれまでテスラ社が成し遂げてきたことの紹介。

 

 *ここ5年の平均気温の上昇は記録的。

 *このトレンドは変わりつつある(温暖化問題への対応)が、そのスピードを加速化させなければならない:アメリカの新規発電容量の76%はソーラーと風力(32GW=3,200万キロワット)。また石炭火力の比率は2010年に46%を占めたが、現在はその半分。

 

 *テスラ社の貢献:百万台以上のEVを供給、据え置き型バッテリー(5GW=500万キロワット)、EVの走行距離260億キロ、ソーラー発電17TWh(170億KWh)。

 

 *持続可能なエネルギーシステムにするためには、EVとエネ貯蔵システムの生産拡大が必要。

 

(第一目標:プレゼンの6-9ページ)

・TWh(=10億KWh)スケールのバッテリー生産の達成(注:テスラ3の電池容量が50-75KWh/台、またテスラのパワーウォールが13.5KWh/台)。

 

 *現在のEV規模は0.1TWH(1億KWh)。EVの普及を100%にするためには、生産規模を100倍にする必要がある。

 

 *再生可能エネを100%にするためには、10TWhが必要(内訳:非再生可能電力:2.3TWh,石炭暖房:1.4TWh,ガス暖房:2.1TWh,石油暖房:0.8TWh、将来のEV:1.5TWh、将来の成長1.9TWh:注:暖房まで含めていることに注意)、雇用増:280万人

 

 *現在の再生可能エネが0.006TWhだから、1,600倍の拡張が必要。

 

 *問題点:バッテリー工場の規模拡大スピードが、こうした需要増に追いつかない。ギガファクトリーあたりの生産規模は0.15TWh(20TWhを生産するにはギガファクトリー135工場が必要)。これには2兆ドルの投資を要する(注:これは105円/ドルとすれば210兆円で日本のGDPが約500兆円だから、それほど驚くほどの規模ではない)。

 

(第二目標:プレゼンの10-13ページ)

・リチウムイオン電池コストの低下(ドル/KWh)

 *問題:EVの乗用車に占める市場シェアは伸びているが、まだ2%未満で普及の初期段階。

 

(バッテリーデイ:プレゼンの14-74ページ)

・このプレゼンのメインテーマ:バッテリー性能の向上を図ることでコスト削減を実現する。

 

 *バッテリーコストを半減する(56%削減)

 

  *その内訳:セルデザインの改良でコスト14%削減、セル生産方式の改善で18%、負極材料の改良で5%、正極材の改良で12%、セルの乗用車生産プロセスの統合により7%のコスト削減。合計56%(P66,注:つまりよく言われる将来値100ドル/KWHをかなり下回るコスト削減への道筋?、p10)。

 

1)セルデザイン(P16-28) 

・セルの大型化(実績:18650型:2008年から21700型:21mm*70mm:2017年へ拡大、P23) さらに拡大:46mm*80mm型へ。

・問題:充電時間の延長

 

2)セル生産方式(p29-39)

・印刷工場やビールの充填方式からヒントを得る。

・電極:湿式から乾式へ

・拡大のテンポ:2022年に100GWh、2030年に3TWh(P39)

 

3)負極材料(P40-44)

・シリコンの利用

 

4)正極材料(P45-58)

・用途によって異なる。 

 

*充電可能回数が多いこと:鉄

*長距離の走行:ニッケル+マンガン

*重量に敏感な場合(MASS SENSITIVE):高ニッケル合金

*製作過程での排水をゼロとする。

・リチウム資源へのアクセス(P56)

・セルのリサイクル(P57)

 

5)セルと乗用車生産プロセスの統合

・バッテリーの構造材としての活用。

・コスト低下と同時にバッテリー収容の必要面積を削減。

   

6)新製品の登場(P71)

・25,000ドル乗用車(260万円)の登場。EVの大衆化が一気にすすむ。

 

・筆者の印象:これは従来型のコスト削減を丹念に追ったもの。以下まったくの憶測で根拠はないが、ここには示されていない新世代の電池開発を進めているのではないか(負極材料の議論が短すぎる、SILAの分析が役に立つ)。

(参考)

・https://www.tesla.com/ja_jp/2020shareholdermeeting