CBOアプローチの勧め
2020.12.04
・CBOはアメリカ議会予算局(Congressional Budget Office)の略称である。これは連邦政府の一機関で、1974年に設立された。その主たる任務は、”中立的な立場”から連邦議会に対して政府予算の理解を深めるために情報提供することである。
・その仕事の一環として、CBOは米国に関する中期的なマクロ見通しを定期的に発表してる。最新のものは、”米国経済に対する2020-2030年見通し”である。
・この見通しの特色は2つある。第一は中立的な立場から、定量的なマクロ予測を行い、その数値を発表することである。第二は図で示したように、まずBAUケースを計算し、次いで金融危機や今回のコロナショックケースによる経済的ショックを求め、両者の差から、GDP損失を求めていることである。これはわかりやすいし、ユーザー自身が結果のチェックが可能という特色を持つ。
・翻って日本の場合、まず中期的な財政見通しは政府のものしかない。これは当然のことながら政府寄りで、中立的ではない。またCBOのように、その内容が頻繁に改定されるわけでもない。CBOの場合、今回利用しているのはCBO予測の2020年7月版だが、財政に関しては2020年9月にそれの改訂版が発表されている、だいたい年に3回程度、改訂版が公表される。
・日本でも政府以外に、民間シンクタンクからマクロ見通しが発表されている。ただしその多くは政府数字の追認もしくはその近似解が多い。これはこうしたシンクタンクが政府からの仕事を請け負っている場合の多いこと、また役人の天下りが多いことなどによるものだろう。また計算内容の更新もやや間遠い。これはエコノミストが自分ではプログラミングできないため、コンピュータ能力をフルに使いきれないためだろう。
・したがって日本の場合、”中立的な立場”から、マクロ予測を状況に応じて頻繁に発表している予測機関はこれまではなかったといってもよい。
・当方のe予測が目指しているのは、このギャップを埋めことである。すなわちe予測は、①政府とは独立にマクロ的な数量予測を迅速に発表する、②計算手法として、CBO型を採用する(まずBAUを計算し、次いでショックケースを計算して両者の差を求める)ことがその特色となっている。最近47都道府県別にコロナショックのインパクトを求めたが、計算はこの方式を採用している。これをここではCBOアプローチと名付けよう。
・このアプローチは、これまで日本には存在しなかった。このため、当方の試算結果は、ユーザーには、若干の戸惑いをもって受け取られたようだ。しかし経済予測のスタイルは急速にこうしたやり方に変わりつつある。たとえば今回のコロナショックに関しても、アメリカのエコノミスト、カトラーとサマーズ(かっての財務長官)は、CBOの試算結果を利用して、アメリカのマクロ的損失を16兆ドルと試算している。
・e予測に戻る。前回のブログにも書いたが、当方のコロナショックのインパクトの試算値は、IMF予測とほぼ同等で、しかも計算時期は半年ほど早い。
2020年 2021年
IMF(2020年10月、WEO、日本) -5.3 2.3
当方のe予測(2020年4月) -5.3 2.0
・大事なのは、当方の試算値には、BAU値も示してあることだ。したがってe予測を使えば、カトラーやサマーズがアメリカに関して行ったのと同様な計算を日本に関しても行うことができる(これは読者への宿題だ)。
・繰り返して言うが、世界情勢の不確実化とIT革新による計算力の爆発を前提にすれば、CBOアプローチが今後経済予測の主流になるのは当然の成り行きだ。当方のe予測は、(ちょっと生意気なことを言わせてもらえば)その先駆けだ。しかも外国の計算よりe予測が優れているのは、ユーザ自身が想定を変えて、マクロや産業構造の計算を実施できることだ。
(参考)
・Cogressional Budget Office,"An update to the Economic Outlook:2020 to 2030",July 2020
・Martin Wolf,"What the world can learn from the Covid-19 pandemic",FT,Nov.25,2020
・David Cutler and Lawrence H.Summers,"The Covid-19 Pandemic and the $16 Teillion Virus",Viewpoint,Jama,Oct.2020
・内閣府、「中長期の経済財政に関する試算」、H28.1.21
(図の出所はCongressional Budget Office,2020.07)