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EV(電気自動車)の経済性など

EV(電気自動車)の経済性など

 2020.11.07

・「電気自動車は面白いが、まだ値段が高く、手が出せない」と思っている人に朗報だ。

・アメリカのコンジューマー・レポート誌によると、電気自動車(BEV)は総費用(購入費用+使用費用(燃料代、修理費など)の全利用期間の合計)でみると、内燃機関車(内燃機関利用、ICE)に比べて割安になるという。

 

・たとえばEVのシボレーボルトはヒュンダイ・エラントラGTに比べて購入費用で8,000ドル高いが、20万マイル(約32万キロ)時点の費用合計では、後者を7,000ドル下回るという。またテスラのモデル3は、Audi A4より約2,000ドル高いが、総費用は後者を下回るという。

 

・もちろんこの計算には、いろいろな仮定が含まれている。仮定のうち主要なものは、燃料費だろう。内燃機関車はガソリンを使う。電気自動車は電気だ。したがってガソリン価格と電気料金の想定次第で計算結果は変わってくる。電気に関しては、自宅で充電する場合と高速充電チャージャーを利用する場合で、そのコストは異なる。

 

・しかしこの分析が面白いのは、電気自動車は割高だという一般的な印象が必ずしも正しくないことをデータで示したことだ。電気自動車がコスト安になる理由は、長年使った時の修理代の相違だ。内燃機関車はエンジンや動力系統に定期的な点検とオイル交換(充填)が必要だ。これに対し、電気自動車はこうした手間がいらない。つまり機械系統の仕組みが電気自動車は内燃機関車に比べて単純なのだ。

 

・話は変わるが、電気自動車といえばイーロン・マスクの名前が頭に浮かぶ。彼は電気自動車以外にも様々な分野で活躍している。どうも今の時代は、マスクのように、先端的なビジョンと現実的なコンピューター・プログラム能力を一人で兼ね備えたリーダーが必要とされているようだ。以下バッテリーとロケットを取り上げる。

 

・まず第一はバッテリーだ。テスラはオーストラリアでNeoen(フランスの再生可ネルギー企業)と組んで、電気のピーク需要を賄うバッテリーシステムを、ビクトリア州で建設する。その規模は45万kwhで、50万世帯の電力需要を1時間賄うことができる。これは、同国の電力網の近代化と安定に役立つだけでなく、発電を石炭から再生可能エネに移行する手助けとなる。

 

・彼らはすでにオーストラリアのホーンスデル(Hornsdale Power Reserve)で、2017年に、電力需給調整用のバッテリーシステム(当初10万kw、昨年15万kwに拡張)を設置した実績を持つ。

 

・この分野では、英国の再生可能エネ企業Octopus Energyとテスラの協業も見逃せない。

 

・第二はロケット。最近のWSJ紙によると、マスク率いるスペースX社は、米国国防省との契約に成功したようだ。今後数年間の国防省の打ち上げのうち、スペースXが約4割を確保し、残りはボーイングとロッキード・マーチンの合弁会社が受注したという。今までロケットといえば、NASAやJAXAの独占物とみなされてきた。マスクはこの”常識”を打ち破ったことになる。

 

・こうしてみると、マスクを中心に様々な動きがあり、それが世界の産業や経済を大きく変え始めていることがわかる。残念ながら、そこには日本企業の姿はない。今からいうのは遅すぎるが、テスラのアジア工場を上海でなく日本に誘致したら、日本企業にもよい刺激になったろう(いわゆるナマズ効果)。経産省もこうしたことで主導権を発揮すれば、その存在価値も高まるというものだ。

 

(参考)

・Benjamin Preston,"EVs offer big savings over traditional gas-powered cars",Consumer report,Oct.08,2020

・Thomas Hawk,「電気自動車は高額でも総コストでみるとガソリン車よりも150万円以上節約できる」。Gigazine,2020.10.24

・Jamie Smith,"Tesla and French energy group to build new Australia mega battery",FT,Nov.6,2020

・Andy Pasztor,"ElonMusk's SpaceX,Once a Washington outsider,courts military business",WSJ,Nov.6,2020

日本語版、「スペースX、軍需でも台頭、受注相次ぐ」