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OpenAIのGPT-3プログラムに関して

OpenAIのGPT-3プログラムに関して

 2020.08.15

・OpenAIは、テスラで有名なイーロン・マスクやサム・アルトマン等が設立した人工知能研究の非営利団体で。AIがすべての人に役立つようにすることを設立目的としている。

 

・サム・アルトマンは、Yコンビネーター(スタートアップに少額の資金を提供し、数ヶ月にわたり指導することで、企業基盤を築かせる)のCEOとして知られる。彼は現在30代半ばの若手、スタンフォード大の計算機科学で学び(中退)、2017年にカナダのウオールタールー大学から名誉学位を贈られている。また2015年にはフォーブス誌から30代以下の最高の若手起業家の一人に選ばれた。

 

・OpenAIの開発したGPT-3(generative pre-trained transformer)は、最近ベータテストのために一部の研究者にAPIが公開されたが、その性能の高さが注目されている。

 

・これを使うと、詩や小説を書いたりコンピュータプログラムを書いたり、ギターの曲を作ることができる。技術オタクの一人はこれを使ってレイモンド・チャンドラースタイルの脚本を書いてみたが、”とてもいける”そうだ。

 

・問題なのは、現時点でこうしたディープラーニング手法を使ったAIは、膨大なデータや画像を学習させれば、(GPT-3は1,750億の言語パラメータを利用)、もっともらしい文章や画像を導くことができるが、それができるにに至った推論過程や判断プロセスは明らかにならないことだ。この問題はすでに方々で論じられており、それに対する対策としてシンボリックラーニングなどの手法が提案されている。

 

・ここではこうしたAIに関する別の問題を取り上げる。それは、過去データをいくら積み上げても、新たな切り口を見いだすこことができないという点だ。

 

 

・作家の阿川弘之はいわゆる海軍3部作(山本五十六、井上成美、米内光政)で有名だ。そのうち、”山本五十六”に出てくる次のエピソードはこの問題の典型例だ。

 

・山本五十六は海軍航空本部長として、来たるべき戦争(第二次世界大戦)における航空兵力の重要性に気づいていた。しかし海軍中央は相変わらず大艦巨砲主義に凝り固まり、戦艦大和、武蔵の建造に踏み切る。以下阿川弘之本からの引用。

 

「山本の論旨は『そんな巨艦を造ったって、不沈と言うことはあり得ない。将来の飛行機の攻撃力は非常に増大し、...今後の戦闘には大戦艦は無用の長物になる』というのであったが、証拠を出してみろと言われれば、世界の海戦史で飛行機に沈められた戦艦は、未だ一隻もない。山本の議論は今でこそ当然至極のものに見えるかもしれないが、当時は少しも当然でない」(同書、p177)。

 

・この問題をAIで扱うとどうなるだろうか。たとえば、昭和10年までのデータを使い、「飛行機が戦艦を沈めるか」とAIに尋ねたら、AIは過去のデータを調べ、「そんなことはまずない」と応えるだろう。既存データからは航空戦力が戦艦に代わって海軍の中心兵力となるという結論は出てこない。つまり先見性や予兆といったものは、いくら膨大な過去データを積み重ねても、導かれない。これが今のAIの基本問題の一つだ。

 

・ではどうするか。AI時代の膨大な計算力と人間のQuirkyな判断力を組み合わせるれば、カオスに満ちた経済社会の将来像を探索することができる。これがわれわれが開発中のe予測の目指すところだ。

 

(参考)

・Jared Council "AI can almost write like a Human---and more advances are coming",WSJ,Aug.12,2020

  「AIに論理的思考の兆し、いずれ映画の脚本も」

・OpenAI.com,"About OpenAI"

・John Thornhill,"The astonishingly good but predictably bad AI program"FT,Aug.9,2020

・阿川弘之、「山本五十六」上、新潮文庫、2000、p178

・Schilling M.,Quirky,Public Affairs,2018