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スペースXの快挙と日本の宇宙開発

スペースXの快挙と日本の宇宙開発

 

・本年5月30日にイーロンマスク率いるスペースX社はファルコン9ロケット(名前はスターウォーズの宇宙船にちなむ)を使って、二人の宇宙飛行士をISS(国際宇宙ステーション)に運び上げた。

 

・この快挙には、2つの特色がある。第一はNASA(米国航空宇宙局)は契約者にとどまり、民間企業がそれを開発したこと、第二はこのプロジェクトはボーイング社とスペースX社の競合だったが、ボーイングの方は不具合が生じたため、結局スペースXがその任務を勝ち取ったことだ。ボーイングといえば、最近は737 MAXの不具合で評判を下げたが、それにしても世界屈指の大企業だ。それに対してスペースXは2002年に設立された宇宙開発ベンチャーに過ぎない。それがボーイングと並んでNASAとの契約を競い、しかも任務を成功させたのだから、驚きだ。

 

・アメリカは2011年以来、宇宙飛行士のISS(国際宇宙ステーション)への移動をロシアのソユーズに任せてきたが、これで国産品に頼ることができ、コストも30%ほど削減できたという。今回の快挙は、IT革新下のイノベーションでは、国や従来型大企業が役立たないことを示してる。いわゆるQuirkyの時代なのだ(「世界を動かすイノベータの条件」のオリジナルタイトル)。たとえばスペースXのファルコン・ロケットは一段目の再使用も可能となっており、こうした発想は従来型の大企業からは出ないか、もしくはつぶされてしまうだろう。

 

・実際、スペースX社のCOOであるグウィン・ショットウェル氏(Gwynne Shotwell)は、ロケット発射時に、ハリエット・タブマン(Harriet Tabman、アメリカの19世紀奴隷解放運動家)の言葉「すべての偉大な夢は夢想家から始まる。あなた自身に、力と忍耐と熱情さえあれば、世界の状態を変えることができる」(Every great dream begins with a dreamer. Always remember,you have within your strengthm the patience, and the passion to reach for the stars to change the world)を記したボタンを着用していたという。彼女はイリノイ出身のエンジニアだが、いわゆる従来型秀才とはちょっと違う感じだ。

 

・日本では国立研究開発法人のJAXA(宇宙航空研究開発機構)がもっぱらロケット開発を行っている。現在ファルコンロケットの向こうを張って、H3ロケットを開発中だ。民間主導といっているが、その主体が三菱重工では、スペースXのような自由な発想は難しいだろう。

 

・日本の新聞などを読んでも、以上のようなニュアンスはなかなか伝わってこない。日本製のニュースを読むふけるより、グウィン・ショットウェルのTEDでの講演でも聞いてみたらどうだろう(日本語訳あり)。よほど頭の体操になる。

 

(参考)

・John Thornhill,"A giant leap for Elon Musk's multi-palnetary ambitions",FT,June 5,2020

・布野泰広、岡田匡史、「H3ロケットの開発状況について」、航空宇宙開発機構、2019年12月10日

・メリッサ・シリング、「世界を動かすイノベータの条件」染田屋茂訳、日経BP、2018

・TED日本語 - グウィン・ショットウェル: 30分で地球を半周するSpaceXの旅行プラン

、2020年2月11日