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コロナショックと発見志向計画法

コロナショックと発見志向計画法

  2020.06.06

・知人のメールニュースを見ていて、「発見志向計画法」が論じられているのを見つけた。本稿はそれに触発されて書いたものである。

 

・発見志向計画法(Discovery-Driven Planning)は事業計画に、将来の不確実性をどのように組み込むかを扱う手法である。これは、マクグラース(コロンビアビジネススクール)・マクミラン(ワートンスクール)両教授によって開発された。メールニュースにもあるように、今回のコロナショックには多くの不確実性が含まれており、それをどのように判断し、将来の経営計画に結びつけるかは今日的課題であり、それにはに発見志向計画法が役立つ。

 

・メールニュースも触れていたが、「イノベーションのジレンマ」で有名なクリステンセン教授(1952-2020)は、その遺書とでもいうべき「イノベーション・オブ・ライフ」でこの手法を取り上げている(第3講 計算と幸運のバランス)。そこでは企業などが予期しない問題を解決するための戦略(創発的戦略:emergent strategy)を有効に働かせるための手法として議論が進められている。

 

・ここからは筆者の考えを述べていく。

 

・第一にクリステンセン教授が例としてとりあげているホンダのアメリカでのオートバイ販売戦略の変更(大型バイクでなく超小型のスーパーカブを売っていく)に関してである。この本に書かれていることは、その通りなのだが、おそらくクリステンセン教授はスーパーカブが何であるかはご存じなかったろう。これは天才本田宗一郎が、エンジン設計からデザインまですべて自分で行った傑作機である。従来の50㏄オートバイが2サイクルで2馬力程度の力しかなかったのに対し(しかも排気が汚い)、このオートバイは、4サイクル(排気がきれい)で4.5馬力を出し、それを実現するためにエンジンの超高速回転を普及機種(もともとはそば屋の出前用に開発)で実用化したものである。だからアメリカの大男が乗っても、馬力不足にならずに楽しめたわけだ(当時のアメリカでは、これをクリスマス・プレゼントにするのがはやりだった:you meet the nicest person on a honda)。

 

・第二に、計画に伴う不確実性を見つけ、それを計画にどのように反映させるかに関してだ。この思考作業には数理モデルが役立つ。たとえばコロナショックの場合、論理構築にはSIR(Susceptible、Infected、Recovered)モデルが用いられる。このモデルの各パラメータに関する不確実性(感染率や回復率など)を決めていけば、コロナ対策に発見志向計画法が応用できることになる(評価変数はR:実効再生産率)。

 

・話は飛ぶが、今回のコロナ騒動で経済活動も多くのショックに見舞われた。それを評価するためには、どのように「発見志向計画法」を適用していけばよいだろうか。じつは不確実性の企業経営に対するインパクトを測るソフトがわれわれの開発中のe予測である。

 

・今回のコロナショックに関しても、e予測を用いたマクロの計算結果はすでにわれわれのHP上で公開してある。このソフトの特色は、マクロモデル+産業連関表を高速で計算して、即座に解が得られること。そしてその操作が、モデル専門家でなくても可能であることである。

 

・コロナショックだけでなく、原油価格の崩壊など、現代はナシーム・ニコラス・タレブ(ブラック・スワンの筆者)の言うシステミック・リスクに満ちている。これに対処するためには、発見志向計画法の枠組みを使い、不確実性計算にe予測を使うというのが、今後の企業計画の常道になるかもしれない。

 

(参考)

・井藤正俊、「信成国際税理士法人メールニュース」、2020年6月号

・Rita Gunther McGrath and Ian MacMillan,"Discovery-Driven Planning",Harvard Business Review,July-August,1995

・クレイトン・M・クリステンセン、ジェームス・アルワース、カレン・ディロン、「イノベーション・オブ・ライフ」、桜井裕子訳、翔泳社,2013

・Neil M.Ferguson,Daniel Laydon etal,"Impact of non-pharmaceutical interventions(NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand",March,16,2020