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コロナウィルスとソリトン波

コロナウィルスとソリトン波

  2020.05.16

・現在、日本でも多くの県で非常事態宣言が緩和され、残る9県でも月内には緩和されそうだ。これでコロナショックは終わりを告げるのだろうか。

 

・最近のハーバード大学公衆衛生大学院の専門家(リプシッチ教授ら)による論文をみると、そう簡単ではなさそうだ。

 

・議論を進める前に、術語の整理をしておこう。コロナウィルスによる病名はCOVID-19、それを引き起こすウィルスはSARS-CoV-2だ。またコロナウィルスの仲間は7つあり(HCoV-229E,HCoV-NL63,HCoV-HKU1,MERS-CoV,SARS-CoV-1,SARS-CoV-2)、今回のコロナウィルスはその一つである。このうちHCoV***は風邪のウィルスで、SARS-CoV-1はSARSの原因となったウィルスである(MERSは中東呼吸器症候群の原因)。

 

・リプシッチ教授らは、新型コロナウィルスの親戚であるHCoV-HKU1などのデータを用いて、今回のCOVID-19で、社会的隔離を行った時の長期効果(2025年まで)を計算している。

 

・その結果は、ニューヨーク・タイムズ紙がうまくまとめているが、要するにソリトン波だという。

 

・ソリトン波とは、川などで、いつまでも続く波の姿(孤立波という)をしめす言葉だ。これで思い出すのは、サーフィンで有名なハワイのノースショアの波は、遠くアリューシャンの低気圧がもたらすものだという事実だ。タイトルは忘れてしまったが、アリューシャンでこの波に乗り、ハワイまでサーフィンでたどり着くというSFがあったが、このイメージだ。

 

・コロナウィルスに戻るが、リプシッチ教授らの研究によると、多くの人が感染して免疫を持つか、有効なワクチンが開発されない限り、社会的隔離が成功して、それを緩めるとまた感染が増え、次々にピークが訪れる可能性が高いという。このピークの連続が、消えない波であるソリトン波に似ているというのが、ニューヨークタイムズの指摘だ。これに関して2つほど思いついたことを述べておく。

 

・第一は、この場合に必要なのはブラックスワンのタレブの言うアンチフラジャイル思考をとることだ。つまりこれを機会に、政治や経済構造を思い切ってIT型に変えてしまうのだ。まかり間違っても、守旧産業の救済に政府資金を使ってはならない。これについては次回のブログで触れたい。また旧来型政治システムにもそろそろ引退をしていただこう。

 

・あともう一つ言えるのは、リプシッチ教授らの論文でもわかるように、数量モデルを使って、実用的な仮説(提言)を、アメリカの専門家がどんどん出していることだ。仮説が出なければ、有効な解を見出すこともできない。若干私事になるが、当方もe予測システムを用いて、コロナショックの経済的インパクトを計算している。この試算から、様々な経済的インパクトを考えることができる。こうした計算がすぐにできるのが、IT時代のありがたさだ。

 

(参考)

・Siobhan Roberts,"This is the Future of the Pandemic",New York Times,May 8,2020

・Stepehn M.Kessler,Christine Tedijanto,Edward Goldstein,Yonatan H.Grad,Marc Lipsithc,"Projectiong the transmission dynamics of SARS-CoV-2 through the postpandemic period",Science,14,April,2020

・及川正行、「第1章 ソリトンの発見」、ながれ31,2012,195-205