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コロナウィルスの経済的影響を考える

コロナウィルスの経済的影響を考える

 2020.04.11

・東京でもコロナウィルスによる緊急事態宣言などを受けて自粛要請などが出されている。しかしコロナウィルスに対してどのように対応すべきかの基本的枠組みを持たずに、悪く言えば、行き当たりばったりの対策を取っているように見える。

 

・この問題への対応策を考えるには、疫学と経済学の2論文を組み合わせて読むことが役に立つ。逆に言えば、欧米のコロナ対策はこれらに基づいて策定されているといってもよい。第一はロンドンインペリアルカレッジのファーガソン教授等による疫学的シミュレーション、第二はFRBエコノミストのコレイラ氏等によるパンデミックの経済的分析である。以下その内容を紹介しておく。

 

1.疫学的な分析枠とシミュレーション結果(ファーガソン論文より)

・前提:

  ①コロナウィルスの流行はパンデミック(世界的大流行)となりつつある。

  ②現在コロナウィルスに対するワクチンは存在しない(完成は早くても1年半後、その開発状況に関しては、次回のブログで取り上げる予定)

  ③患者一人あたりの再生産数(R)は、2.4程度(シミュレーションでは2-2.6を利用)。 

  

 

・2つの対策

  ①抑制策(suppression):これは再生産数(R)を1以下に抑えること。基本的にワクチンがないと、難しい。

  ②緩和策(mitigation):これは基本的に、医薬品以外を使った抑制策(NPIs:non-pharmaceutical interventions)となる。目的は、感染数の爆発的増大による医療崩壊を防ぐこと。

 

・シミュレーション結果(英米の場合)

  *何も手を打たなかった場合:5月から6月に感染のピークとなり、人口の約8割が感染する(死者は英国で約51万人)。この場合、重傷者を受け入れるための病床数は大幅に不足する:医療崩壊。

  *抑制策をとることにより、感染のピークを下げ、死者総数を減らすことができる。有効なのは自宅隔離、ハイリスクグループ(高齢者)を感染源から切り離すことなど。これによって医療崩壊を防ぐことができる。

 

2.経済的分析(コレイラ論文)

・アメリカで1918年に起こったインフルエンザパンデミック(いわゆるスペイン風邪)の経済的影響を実績データに基づいて分析。

 

・この論文を読むにあたって大事なのは、NPIsという疫学用語(上のファーガソン論文参照)の意味を理解していること。そうでないと、論文の含意がつかめない。

 

・1918年にはインフルエンザワクチンは使われていなかったので(接種開始は1930年代)、当時の状況は現在のコロナウィルスパンデミックと同じである。従って分析結果が今回のコロナパンデミックにも役に立つ。

 

・つまり当時も抑制策は取り得ず、緩和策(NPIs)で対応するしかなかった。

 

・当時のデータを分析すると、積極的なNPIsを早期に実行した都市はパンデミックの終了後、経済回復も早く順調になった。

 

・つまり積極的なNPIsは単に感染数のピークを抑えて医療崩壊を防ぎ、死亡者数を減らすだけでなく(これがファーガソン論文の疫学的指摘)、経済対策としても、ワクチンがない状況においては最適である(コレイラ論文の主張)。

 

・日本の場合、検査能力は限られ、また非常事態宣言は出されたものの、その内容は自粛が主体で、アンチウィルス対策としてはtoo slow,too lateの感じが強い。フィナンシャルタイムズ紙によれば、「日本はコロナウィルスの感染制御に全面的なロックダウンを採用しないという賭けに出た」ということになる(4月7日)。

 

・こうした手ぬるいやり方が感染爆発を招き、また経済にも長く深い影響を与えなければ、幸いである。

 

(参考)

・Neil M.Ferguson,Daniel Laydon etal,"Impact of non-pharmaceutical interventions(NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand",March,16,2020

・Sergio Correia,Stephan Luck,Emil Verner,"Pandemics Depress the Economy,Public Health Intervetions Do not:Evidence from the 1918 Flu",SSRN,March 26,2020

・Robin Harding,"Japan gambles on partial lockdown to control coronavirus",FT,Apr.7,2020