(続)コロナウィルス:インペリアルカレッジのシミュレーション
2020/04/03
・英米のコロナウィルス対策の前提となったインペリアルカレッジの計算は、前回のブログで紹介した。この続報が発表されたので(2020年3月30日)、紹介しておく。
・今回の計算は、ヨーロッパ11カ国(オーストリア、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリー、ノールウェー、スペイン、スウェーデン、スイス、英国)を対象としたもので、コロナウィルスによるこれまでの死者数を実績データとして利用し、これまでとられた各種の医薬品以外を使った抑制策(NPIs:non-pharmaceutical interventions)の効果を見たものである。
・モデルは階層ベイズモデルを採用している(今回のペーパーにはモデル内容が紹介されているので、専門家には有用だろう:Appendix8)。
・この計算の決め手になるのは、再生産数(R)。つまり一人の感染者が何人に病気を移すかという指標。何も手を打たない場合の値を3.87と想定し、これを各種のNPI(ロックダウン、公開行事の禁止、学校閉鎖、閉じこもり、社会的距離を取ることなど)を取った時、どれだけ低下するかを見ている。Rが1以下になれば、流行は落ち着くが、それ以上は感染が続くことになる。ここでの計算では、現在11カ国平均で、各種対策が取られた結果、1.43程度までに低下したものと推定している。ただしNPIが緩和されれば、この数字は上昇し、再び流行が進む可能性がある。
・このモデルで計算したところ、ヨーロッパ11カ国で感染者は700万から4,300万人程度(3月28日現在、推定幅の大きいのは感染初期段階のデータを利用しているため)。これは率にして、全人口の1.9%から11.4%程度を占める。また各種のNPIによって5.9万人程度の死亡数を減らすことができたと推定される。
・以上がペーパーの概要だが、興味ある方は是非原論文をお読みいただきたい。
・こうしてみると、日本のコロナウィルスに対する対応策は、あまりこうした計算の結果を利用していないようだ。すでに日本のコロナ対策は諸外国からやや疑問の目を向けらはじめている。日本の当局が、自らの方針に確たる自信をもっていれば、批判を受けてもかまわないが、どうもそうではないらしい。感染の現状に関する明確なデータを持たず、また諸対策の定量的効果(とそのコスト)を求めることなく、悪く言えば行き当たりばったりの政策に頼っているように見える。日本にも優れた数理疫学者がいるのだろうから、彼らの知見を政策策定に利用すべきだろう。
・もしも日本の都市部で感染のオーバーシュート(急拡大)が生じたら、これは政策的貧困の結果と言わざるをえなくなる。
(参考)
・Samil Bhatt,Axcel Gabdy etal,"Estimating the number of infections and the impact of non-pharmaceutical interventions on COVID-19 in 11 European countries",Imperial College COVID-19 Response Team,March 30,2020
・David Sheppard and Donato Paolo Mancini,"One in 15 peopele in London may already be infected with coronavirus",FT,April 4,2020
・Simon Denyer and Carolyn Y. Johnson "Japan uses targeted coronavirus testing;South Korea goes big.The U.S.faces a choice",Washington Post,March 29, 2020
・日経新聞、「欧米に近い外出制限を」、2020年4月4日