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コロナウィルスとインペリアルカレッジのシミュレーション

コロナウィルスとインペリアルカレッジのシミュレーション

  2020/03/27

・英米当局のコロナウィルス対策に大きな影響を与えたものに、インペリアルカレッジ(英国の理工系名門校)のシミュレーションがある。この結果は、日本にとっても意義深いのでここに紹介しておく。興味ある方は、ぜひ原論文をお読みいただきたい。

 

・前提:

  ①コロナウィルスの流行はパンデミック(世界的大流行)となりつつある。

  ②現在コロナウィルスに対するワクチンは存在しない(完成は早くても1年半後)。

  ③患者一人あたりの再生産数(R)は、2.4程度(シミュレーションでは2-2.6を利用)。  

  ④致死率は高齢者ほど高い。  

  ⑤潜伏期間5.1日と想定。

  ⑥各国の感染は1月初旬から指数関数的に増大と想定。

 

・2つの対策

  ①抑制策(suppression):これは再生産数(R)を1以下に抑えること。基本的にワクチンがないと、難しい。

  ②緩和策(mitigation):これは基本的に、医薬品以外を使った抑制策(NPIs:non-pharmaceutical interventions)となる。目的は、感染数の爆発的増大による医療崩壊を防ぐこと。

 

・シミュレーションの結果(英米の場合)

  *何も手を打たなかった場合:5月から6月に感染のピークとなり、人口の約8割が感染する(死者は英国で約51万人)。この場合、重傷者を受け入れるための病床数は大幅に不足する:医療崩壊。

  *緩和策をとることにより、感染のピークを下げ、死者総数を減らすことができる。有効なのは自宅隔離、ハイリスクグループ(高齢者)を感染源から切り離すことなど。これによって医療崩壊を防ぐことができる。

  *さらに第二波が今年11月から1月に掛けて生じる可能性が高い。

 

・なお別の感染モデルを使ったオックスフォード大学の研究が、これとは異なる結果を導いていることを付記しておく。

 

・日本への含意

   *コロナウィルスはワクチンが無いので、基本的に抑制策は当面取り得ない。

   *これから感染のピークが来ることが予想される(5月?)

   *日本に関するこうしたシミュレーション結果をパラメータとともに公表して欲しい。それによって人々のコロナウィルスに対する認識と予防意識が高まるだろう。

   *第二波の来ることも予想されるので、短期的な収束はおそらくあり得ないだろう。

   *高齢者対策が重要になる。これが医療崩壊を防ぐ決めてになる。

         *このシミュレーションでは、経済的影響は算出していないが、これがこれから重要になってくる(当方の試算結果はHP参照)。

 

・それにしても、こうした定量シミュレーションの結果を、政策に反映させるという仕組みが日本にはないようだ。これが、当方がe予測によるマクロゲーミングを始めた理由でもある。

 

(参考)

・Neil M.Ferguson,Daniel Laydon etal,"Impact of non-pharmaceutical interventions(NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand",March,16,2020

・Jose Lourenco,Robert Paton etal,"Fundamental principles of epidemic spread highlight the immediate need for large-scale serological surveys to assess the stage of the SARS-Cov-2epidemic",University of Oxford,March,2020

・Chelsea Bruce-Lockhart,John Burn-Murdoch and Alex Barker,"The shocking coronavirus study that rocked the UK and US",FT,March 20,2020