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漠然とした不安

漠然とした不安

 2020.01.11

・年明けの感想として、あまりおめでたくはないが、”漠然とした不安”を取り上げたい。

 

・作家の佐々木譲氏は、筆者お気に入りの一人で、道警の腐敗事件を追った警察ものや、第二次世界大戦のエピソードを描いた「ベルリンへの飛行指令」などでなじみ深い。

 

・彼が昨年末のオール読物でインタビューに応じている。その内容が興味深い。

 

 「3-4年前から日本という国の”終わり”が見えた感じがしているんです。・・・今や”終末”が現実のものになりつつある。その危機感を書き留めておきたくて、SFに挑戦しています。・・・『作家は戦争を止めることはできない。でも社会に異変が起こるとき、いち早くそれを感じ取り、”炭鉱のカナリヤ”として啼くことはできる(アメリカの作家カート・ヴォネガットの言葉の引用)」

 

・佐々木譲氏はすでに夕張市の経済破綻を扱った小説、「カウントダウン」でも同趣旨を登場人物に述べさせている。

 

 「もう日本は、全体が夕張みたいなもんだ。商売人にとっておもしろみのあるところじゃない。・・・日本も見切りどきなんだ」(同書、P148)。

 

・危機の根源にあるのは、日本のリーダたちの徹底した”問題先送りだ”。現在起こりつつある問題を直視しないで、将来へつけ回しを行う。そのツケを払わねばならないときが近づいている。これに関して、ホンダの創始者本田宗一郎がうまいことを言っている(偶々だが、佐々木氏はホンダの社員でもあった)。

 

「田舎の財産家がつぶれるとき・・・まず物を金に換えるときには、一番目立たない倉の中の宝物から売り始める。それから屋敷を売っては目立つので、遠くの方の持ち山を売る。売ればまだいいが、抵当に入れることの方が多い。しかし金が足りずに抵当に入れるのだから、金利だけかさむことになる。そこでいざガクンと来た時には、一木一草も残ってはいない。有能な商売人だったらこんな馬鹿なことはしない。理論的にどうしても成り立たないとなったら、見栄も外聞も捨てて傷の深くならないうちにさっと身を引く・・・軍隊だって退却すべきときには、司令官の面子なんかにこだわらないで、全軍算を乱さずに、全体的に徹底的に退却しなければならない。それを無理押しするから、ある一角が崩れる。崩れ始めると、これはやられるぞというわけで、浮足立ってくる。そこをドスンとやられると、あとは四分五裂で敗走しなければならない。日本なんかこの式の見本みたいなもんだ」(本田宗一郎、P133-134)

 

・ではどうすればよいか。今読んでいるのは、第一次大戦後のドイツを経済混乱から立ち直らせたライヒスバンクの総裁ヤルマール・シャハトの伝記だ。僭越ながら、現在日本のリーダー達が考えようともしない、シナリオCを手探りするためだ。

 

参考)

・佐々木譲、「書くことは変わり続けること」、オール読物、2019年11月号

・〃、「カウントダウン」、新潮文庫、2013年

・宮本雅史、「北海道が中国の32番目の省になる日」、FACTA、2019年12月号

・H.シャハト、「我が生涯」、永川秀男訳、経済批判社、1954年

・本田宗一郎、「ざっくばらん」PHP研究所、2008