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コールドチェーンをバッテリーとして使う

コールドチェーンをバッテリーとして使う

 2019.12.21

・温熱や冷気の保存・利用はわれわれが日常やっていることだ。たとえば湯たんぽは温水を入れることで、夜分にふとんを温める。また魔法瓶は冷たい飲み物を保存するのにも使われる(もちろん温水でもかまわない)。こうした形で熱を保存したり使うことをサーマル・バッテリーという。

 

・しかしこの使い方は一方向的だ。つまり湯たんぽの例で言えば、ガスや電子レンジでお湯を沸かし、それを湯たんぽに入れることで保存した熱を利用する。しかし最近では、この逆の利用法が実用化されつつある。つまり保存した熱を、電力需要の変動抑制に使おうと言うのだ。たとえば、われわれの食生活は、コールドチェーンによって支えられている。スーパーに並ぶ冷凍食品は、工場で加工された後、冷凍され、さらに冷凍トラックを使ってスーパーに配送される。この仕組みはコールドチェーンと呼ばれている。

 

・冷凍食品は、スーパーの食品棚に並ぶ前に大型冷凍庫に保管される。この冷凍庫はコンプレッサーを使って冷やされるが、短時間なら、冷やさないでも、冷凍食品の品質を保てる。だとすれば大型冷凍庫を熱バッファーとして使い、電力系統がピークを迎えるときに、短時間冷凍機を止めることで、電力のピーク需要を減らすことができる。

 

・こうしたアイデアに基づいて、英国では、リンカーン大学(英国東部にある公立大学)、テスコ(英国の大スーパーチェーン)IMS Evolve社(Iotのコンサルティングファーム)が連合でコールドチェーンをサーマル・バッテリーとして扱い、それを電力網に接続することで、ピーク需要の平坦化を進めるプロジェクトを開始した。このプロジェクトでは、電力網から1.6万kwを一日に30分間減らすことが可能であるとされている。

 

・同様な動きはアメリカでもあり、Axiom Energy Solution社はホールフッズ(高級食品スーパーでアマゾンが買収)と組んで2017年以来、西海岸で3基の冷蔵庫バッテリー(refrigeration batteries)を設置した。これはスーパーにとってもメリットがある。ピーク電力を買わずに済むので、コストダウンにつながるからだ。なおAxiom社はオイルメジャーのシェルがバックアップしていることでも知られる。シェルは世界最大の電力会社になることを標榜しているが、こうした分野でも同社の動きが見られるのは、興味深い。

 

・需要側のピーク抑制の動きは、電力供給に占める風力やソーラーなどの再生可能エネルギー増大の反映でもある。これらの供給源は変動しやすいので、その変動の一部を需要側で吸収できれば、エネルギー・システムの安定と効率化につながるからだ。

 

・英米では、IT企業とエネルギー産業がうまくコラボレートして、再生可能エネルギー中心のエネルギーシステム構築に取り組み始めている。さて日本の場合にはどうだろうか。

(参考)

・Charlotte Middlehurst,"Virtual batteries ,coming soon a food-store near you",FT,2019.11.09

・IMS EVOLVE,"Supermarkets' Cold Storage could provide National Battery for UK Grid""

・A.Postnikov,I.M.Albayatui,S.pearson,C.Bingham,R.Bikerton,A.Zolotas,"Facilitating static firm frequency response with aggregated networks of commercial food refrigeration systems",Applied Energy,251,(2019),11357