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世界動向を見ていく

世界動向を見ていく

 2019.11.23

・INGはオランダを拠点とする金融コングロマリットだが、そこのニューズレターにヌリエル・ルビーニ(Nouriel Roubini)が登場していた。彼はニューヨーク大学教授だが、クリントン政権の上級経済アドバイザーも務め、2008年の世界金融危機を予言したことで有名だ(ウィキペディアによる)。

 

・最初に彼の論点を示し、次いで当方のコメントを加えることにする。

 

1)ヌリエル・ルビーニの指摘

・本年半ばから金融市場はリスクオン(危ないと思い安全策を講じる)とリスクオフ(安全だと思い、積極策に打って出る)の間を行き来しており、今はリスクオフのフェーズのようだ。

 

・その背景は以下の通り。①米中の貿易交渉が当面これ以上の悪化を示さないようにみえる、②英国のEU離脱がソフト離脱になりそうだ、③トランプはイランに対する直接攻撃を手控えたようだ、④各国の中央銀行が、地政学上の不安を解消するためさらに緩和策に進むように見える。

 

・しかし世界経済の先行きはそれほど明るくない。①中国、日本、ドイツの経済動向があまり良くない、②アメリカ大統領選後に米中間のデカップリングがさらに進むだろう、③香港情勢はさらに厳しさを増し、来年には強制的な権力介入が行われよう、それが米中関係をさらに悪化させ、また台湾の独立志向を強めることになる、④ユーロ圏はブレクシットにかかわらず、ドイツなど財政出動余力のある国がそうしないこと、ECBのラガルド新総裁はこれ以上の緩和に踏み切れない、またEUの主要メンバー(ドイツ、スペイン、フランス、イタリー)は政治的騒動に巻き込まれ、これが経済的低迷につながる、⑤イランでは経済制裁のため暴動が起こっているが、同国はアメリカの制裁を止めさせるため、中東の不安定さを助長する政策をとる、中東はすでに混乱状態にある(イラクとレバノンは破産状態、イランが支援するヒズボラはイスラエルを攻撃するかもしれない)、またトルコのシリアへの介入は新たな不確実性要素となる、イスラエルは政治的真空状態にある、中東は火薬庫、ちょっとしたことでオイルショックが生じかねない、⑥中央銀行はこれ以上の経済緩和策を持ち合わせない、他方で財政政策は政府負債の累積と政治的制約により拡張が難しい、⑦グローバル化に対するポピュリストの反抗が世界各国で見られる、ボリビア、チリ、エクアドル、エジプト、フランス、スペイン、香港、インドネシア、イラン、イラク、レバノンでは民衆の暴動が生じている、⑧トランプ政権下のアメリカが最大の不確実源だ、かれは第二次大戦後に築いてきた国際秩序を破壊しようとしている、フランス大統領のマクロンはNATOの無力化を恐れている、またトランプはアジアの同盟国である日本や韓国に冷たい、米国内では弾劾プロセスが進んでいる、⑨人口の高齢化が成長力を低下させ、移民制限がこれに拍車を掛ける、また温暖化問題が極端な気候の出現により経済コストを増している、AIやオートメーションはまず労働需要の低下という形で経済的に効いていくる、また債務累積はデフォールトや破産をもたらすかもしれない。

 

・にもかかわらず、金融市場はこうしたリアル・エコノミーから切り離され、好調を保っている。しかし上に見たように、世界経済の基本的リスクは現存する。これは中期的には悪化の道をたどり、それが金融市場に跳ね返る可能性を無視することはできない。

 

2)当方のコメント

・彼の指摘は、その視野が全世界に及び、しかも分析視点が鋭いという意味で大いに役立つ。

 

・それにつけても思うのは、世界経済を総合的に見るための定量ツールが今こそ必要とされているということだ。かって計量学者のクライン教授が主導したLINKが世界モデルを目指したが、結局のところあまりうまくいかなかった。

 

・しかしここ数十年のIT革新の進化はすさまじいものがある。コンピュータ計算力の指数的拡大と様々なデータのオープン化がこれを象徴する。当方のe予測は、それを利用して世界経済の分析ツールを開発中である。2020年発売予定の、EYE_WLD_VER2では、アメリカ、中国、日本のマクロモデルと産業連関表が組み合わされ、原油価格が上昇したらどうなるか、アメリカ経済が低迷したら中国経済のどのような影響がでるのか、米中の経済情勢の変化は日本のマクロ経済や産業構造にどのようなインパクトを与えるのかなどを、瞬時に計算することができる。

 

・このシステムはスケーラブルに設計されているので、次の次のバージョンではドイツ経済を含み、さらに東南アジアについても計算対象にしていきたい。いよいよ”WHAT IF QUESTION”に対する定量的な試算結果が手元のPCでできる時代になりかけている。こうすることでヌリエル・ルビーニの指摘に対する、定量的検討が可能になるだろう。

 

(参考)

・ING Thik Outside,"Why funancial markets' new exuberance is irrational",Nov.21,2019