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ギャビン・ニューサムに注目

ギャビン・ニューサムに注目

 2019.09.21

  ・これは前回のブログの続報といってもよい(「カリフォルニア州バークレーでの住宅用天然ガスの禁止に関して」、2019.09.14)。前回のブログでは、カリフォルニア州のバークレー市の天然ガス禁止を取り上げたが、実は、カリフォルニア州自体が、温暖化防止の実現に積極的である。

 

・カリフォルニア州前知事のジェリー・ブラウンは、温暖化防止に関して積極的に取り組んできた。彼は2015年に世界に呼びかけて「2度未満連合」(Under2 Coalition、今世紀末までの気温上昇を産業革命以前に比べ2度未満に抑える)を立ち上げ、100以上の自治体の賛同をえた。、2018年9月にはトランプ政権の妨害を押しのけて、GCAS(グローバル気候行動サミット、Global Climate Action Summit)を開催している。

 

・このジェリー・ブラウンが2期務めたあと、登場したのがギャビン・ニューサムだ。彼は2019年1月に第40代カリフォルニア州知事に就任した。

 

・この男の履歴は面白い。まず最初の黒人サンフランシスコ市長となったウィリー・ブラウンに見いだされ、市政に参画した後、36歳でサンフランシスコ市長に選ばれ、2期勤めた。その後ジェリー・ブラウンの下で副知事を務め、今回州知事となった。

 

・ではなぜ彼に注目するのか。それは彼の著書、”シチズンビル”(Citizenville)を読むとわかる。ちなみに邦訳タイトル、「未来政府」ではこのニュアンスは伝わらない。

 

・ファームビルは、ジンガ社(Zynga)が開発したゲームで、オンライン上で人々が協力し合いながら農場を開拓していくものである。ニューサムによれば、このゲームは、①ソーシアルメディアがあまねく普及していること、②テクノロジーに精通した若い米国民の間でゲームや競争が人気を集めていること、をうまく利用している(ニューサム著作、p13)。だとすればこうした社会トレンドを政府改革(IT革新にふさわしい政府)に使えばよいではないか、というのが彼の発想だ。彼の本のタイトルがシチズンビルというのは、まさにこのファームビルをもじっている。

 

・彼はすでにサンフランシスコ市長として8年間、IT技術を活用した市政の近代化に取り組んできた。その実体験と副知事時代の州政治の経験を使って、カリフォルニア州政をIT時代にふさわしいものに変えていくだろう。

 

・その際、ブラウン前知事が進めてきた環境政策は、IT革新の成果を生かした形で、さらに有効性を高める可能性がある。

 

・ちなみに、2019年9月には国連のClimate Action Summit 2019が開かれる。これに対してIT企業(GAFAなど)は温暖化防止への積極的取り組みを表明している。その多くはカリフォルニア州に本拠を置く。IT革新と温暖化防止策がこの州で手を結ぼうとしている。

 

・トランプ政権はカリフォルニア州のこうした動きに神経をとがらせている。かれはカリフォルニア州に認めてきた独自の自動車排出基準を設定する権限を取り消すと表明した(2019年9月)。

 

・今アメリカ政治というと、皆トランプ氏の動向に目を向けている。もしくは次期の大統領選挙に立候補する民主党の候補者(バイデン氏やウォーカー氏)に注目している。しかしアメリカの新たな動きは、このカリフォルニアからはじまるかもしれない。新知事となったニューサムはそれだけの実績と知見を積み上げてきている。トランプ現象が終わった後、次に来るのは、カリフォルニア旋風かもしれない。

 

(参考)

・Gavin Newsom,Citizenville,Penguin Books,2014

邦訳、ギャビン・ニューサム、「未来政府」、稲継裕昭監訳、町田敦夫訳、東洋経済、2016

・マーク・ハーツガード(Mark Hertsgaard)、「2045年までに化石燃料全廃 カリフォルニア州知事への賞賛と批判」、Cimate Lessons from California,Newsweek,2018.09.12

・California Climate Strategy,https://www.climatechange.ca.gov/

・Chris Nuttall,"Google aims for 2030 zero emissions",FT,Sept. 20,2019

・Katy Sech FerekmAlejandro Lazo,"Trump:Administration is revoking California Emissions Waiver",WSJ,Sept.19,2019