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レジームシフトとドラゴン・キング現象

レジームシフトとドラゴン・キング現象

 2019/08/03

・日本の政治・経済システムは、メカニカルな安定系ではなく、複雑適応系(complex adaptive system)と見た方が妥当だろう。複雑適応系とは、多様な要素が相互接続することで、全体の挙動が決まる体系のことである。この体系は状況に応じて変化するが、全体の挙動を事前に予測することはできない。

 

・おそらく日本の政治経済システムは、今後21世紀半ばに掛けて、複雑適応系としての性格をあらわにするだろう。それは、この時期に日本がレジームシフトを経験するからだ。すなわち、産業革命によって駆動された工業化社会(フォーディズム)からIT革新によって駆動されたネットワーク社会への転換が急速に生じるからだ。レジームシフトは過渡状態を伴う。過渡状態においては、そのシステムの動学的特性が明確に現れる。

 

・日本の場合、政治家・官僚・企業家など既得権益層による転換への抵抗が強いため、レジームシフトはカタストロフィックな過渡期を伴う可能性が高い。

 

・この過渡状態を表現するコンセプトとして、最近ドラゴン・キング現象が注目されている。これはスイスの物理学者ディディエ・ソネットが提唱したもので、通常の予測範囲を超えた現象が、複雑適応系のある状態で生じることを意味する。通常の予測範囲には、いわゆるファットテイル(Zipfの法則)も含まれており、それを超えた超常現象という意味で、彼はこれをドラゴン・キングと名付けた。ドラゴン(竜)は通常存在しない動物、キングはその王ということになる。

 

・この現象によって、システムにはフェーズ・シフトや分岐が生じ、またティッピングポイントを超えて、新たなレジームが生まれることになる。

 

・日本の場合、まず政治体系が不安定化する。いずれ別稿で取り上げるが、山本太郎現象はその始まりとみることができる。同時に経済体系が、急速な崩壊に直面する。この意味で、投資家ジム・ロジャーズの警告を無視することはできまい。

 

・なぜ日本がこうした特殊な過渡状態に入るかというと、システムの同質性があまりに高いからだ。他の国では、与党の政治家が一つの方向を目指しても、それに対して野党が対立軸を示したり、もしくはマスコミがそれにチェックを入れるという形で多様性が保たれる。しかし現在の日本システムは、流行語の”忖度”に見られるように、きわめて同質性が高い。また政治、経済、行政などがそれぞれ独立に機能していれば、モジュール化が保たれるため、全体の崩壊は防げるが、日本の場合、官民一体などの言葉があるほど、各要素の相互連関が高くなっている。こうしたシステムで、レジームシフトが生じると、ドラゴン・キング現象が生じることになる。

 

・日本にとって残された時間はあまり長くない。その間にシステムの多様性とモジュール化を進めることが必要だ。これによって来たるべきレジームシフトがドラゴン・キング現象をもたらさないようにせねばならない。

 

(参考)

・Didier Sornette,"Dragon-Kings,Black Swans and the Predicition of Crises",International Journal of Terraspace Science and Engineering,

1(3),1-17,2009

・Didier Sornette,"Predictability of catastrophic events: Material ruputure,earthquakese,turbulence, financial crashes, and human birth",PNAS,Feb.19,2002,Vol.99

・Marten Scheffer,Stephen R.CaroebtermTimothy Lenton etal,"Anticipating Critical Transitions",Science, Oct.19,2012