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自動運転:ウェイモとテスラの近況

自動運転:ウェイモとテスラの近況

  2019.03.10

 当ブログでは、「カリフォルニア州自動運転車報告書2018年版のリリース」(2019.02.16)を紹介したが、日経新聞では、3月8日にこの報告書に関する記事を掲載し、(ちょっと遅れているが)それはそれで、なかなか読み応えがあった。

 

 ただしこの記事はその後の動静をあまり扱っていない。自動運転の分野は月単位で変化する。いわゆるドッグイヤー論を思い出して欲しい。これを考えれば、IT分野の一ヶ月の変化は、他の分野の変化の半年分に相当する。変化をリアルタイムでウオッチする必要がここにある。この間生じたニュースを二つほど取り上げておく。 

 

 1)ウェイモ(グーグル)のLidarセンサー外販

 一人勝ちに近いウェイモが次の一手を打ち始めた。ウェイモは最近、自社開発のLidarセンサーを外販する計画を公開した(Laser Bear Honeycomb)。このLidarの特色は、第一に走査範囲が広いこと。垂直方向で視野(field of view)が95度、水平方向で360度とされている。第二の特色は、レーザー光線による判別を最初の対象だけでなく、4つの対象に関してできるようにしたことだ。たとえば木を照射したとき、葉っぱだけでなく枝や幹まで判別できる。

 

 こうした特性はウェイモが自動運転の実験中に遭遇した様々な状況に対応するために開発されたものだろう。この外販によって、グーグルは自動運転のみならず、家庭用のエネルギーセンサーなど他の分野に販路を広げようとしている。これはセンサー自体のコストダウンにつながると同時に、グーグルのセンサー分野での支配力を絶対的なものとする。

 

 この戦略はスマフォにおけるクアルコムと同じだ。スマフォには大体クアルコムのチップが使われており、これによってクアルコムは莫大な利益を上げている。余談だが、これにアップルが対抗して、クアルコムを訴えたのは記憶に新しい。ただし最近の情勢では、アップルがやや分が悪そうだ。たとえばドイツではクアルコムが勝訴し、アップルはクアルコムのチップを使ったiPhoneをドイツ国内で売らざるを得なくなったようだ。

 

 ウェイモの話に戻るが、ウェイモの狙っているのは、センサーにおけるクアルコムであり、これが実現すると、既存の自動車メーカーのみならず家電メーカーもウェイモ製のセンサーを使わねばならなくなるかもしれない。

 

 2)自動運転におけるテスラの位置づけ

 日経の記事では触れられていないが、テスラの戦略は、グーグルとは異なる。それはテスラがEVカーをすでに50万台ほど発売していることから生じる。同社はこのEVにシャドウ・モードを設け、実際のドライバーの運転と自社開発の自動運転ソフトの比較をリアルタイムで行っている。かりに50万台が年間1万キロ走行するとすると、全体では50億キロの走行距離となる。しかもこれはさまざまな条件下における実走行であり、サンプルとして貴重である。テスラはこのデータを元にして自動運転ソフトの改良を進めている。

 

 同社は、やや限られた機能ながら、Full Self-Driving packageを最近発表した。これはモデルS,X,3のすべてに装着可能で、新車購入時のコストは5,000ドル(後付けは7,000ドル)となっている。これは当面ハイウェイなどで使えそうだが、ドライバーは運転状況を常時モニターしている必要はある。

 

 いずれにせよ、自動運転のレースは、現状では、ウェイモ、テスラ、GMクルーズの3社がダントツのようだ。既存の大カー・メーカーが入ってこないことが(GMクルーズはGMがクルーズ・オートメーション社を買収)、この分野の鍵となる技術がITであることを示している。

 

 日本経済はクルマが支えている。日本車の自動運転における、存在感の薄さは、直に日本経済の没落につながる。少々気が重いことだ。

 

(参考)

・Simon Verghese,"Bringing 3D perimeter lidar to partners",waymo team

   https://waymo.com/lidar

・Gigazine,「Waymoが自動運転カー搭載のLidarセンサーを他分野に向けて販売開始」、2019.03.17

・Andrew Hawkins,"Tesla's controversial 'full self-driving' version of Autopilot is back",The Verge,2019.02.28

・Tobias Buck,"Apple to sell iPhones by Qualcomm chips inGermany",FT,Feb.14,2019

・日経新聞、「自動運転 グーグル系独走」、2019.03.08