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Quirkyを読む

Quirkyを読む

 2018.09.09

・Quirkyは日本語に訳すと、「風変わりな」となる。これをタイトルにした、イノベーションに関する著作が最近発表され、話題を呼んでいる。

 

・この本は、ニューヨーク大学ビジネス・スクールのメリッサ・シリング教授によって書かれたものだ。何が面白いかというと、今のIT革新に通じる、全く新たなイノベーションを起こした人物を個別に調べ、その共通特色をえぐり出していることだ。

 

・対象になったのは、イーロン・マスク(Elon Musk)、ニコラ・テスラ(Nikola Tesla)、アルバート・アインシュタイン(Albert Einstein)、スティーブ・ジョブズ(Setve Jobs)、マリー・キューリー(Marie Curie)、トーマス・エジソン(Thomas Edison)、ベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin)、ディーン・カーメン(Dean Kamen)の8人だ。

 

・このうちあまり知られていないのは、テスラとカーメンだろう。前者は、マスクの電気自動車メーカーの名前がそれから取られているので、何となく親しみ易い名前かもしれない。このテスラのやったことは、確かに真のイノベーションといえる。彼は電気の交流に関するほとんどの応用を実現した。たとえば交流モーター(子供の頃に直流モーターを作った人は多いだろう、これはどうやったら交流で動くのかをちょっと考えて欲しい)や長距離無線の実用化は彼が行った発明である。テスラが居なければ、我々が使っている洗濯機やテレビは今の形で実用化されなかったかもしれない。彼が、マルコーニやエジソンに比べて、あまり有名ではないのは、世渡りが下手で、特許戦争でうまく立ち回れなかったからのようだ。

 

・もう一人の人物、カーメンはセグウェイの発明者として知られる。

 

・この8人に共通するのは、あまり恵まれない境遇に育っていること、とてつもなく頭は良いが、学校とうまく折り合えなかったこと、他人から距離を置き孤独を楽しむ性格であること、自分の信念を強く持ち、他人からの批判に打たれ強いことなどだ。

 

・たとえばアインシュタインは、学校を出てヨーロッパの大学に職を求めようとしたが、権威に従わないため、すべて断られた。このため彼は特許局に勤務し、仕事の合間に、物理学を根底から変えてしまうような論文を書いた。

 

・またスティーブ・ジョブズが、アップルから追い出され、トイストーリーのピクサー(PIXAR)に居場所を求め、さらにネクストで新たなOSを開発し、これを手土産にアップルに舞い戻ったことはよく知られている。

 

・この本で初めて知ったのだが、キューリー夫人が育ったポーランドは、ロシアの支配下にあり、自国語も自国文化も教えることを禁じられ、彼女はそれを両親から自宅で学んだようだ。女性初めてのノーベル賞受賞者(彼女は2回受賞)に、このような苦労があったとは、知らなかった。

 

・特に興味を引かれたのは、こうした人々の「他人から距離を置き孤独を楽しむこと」という特性だ。これによって、彼らは、その時代の主流となる考えや、組織にそまることなく、自己の信じる道を開拓できた。しかしこれは厳しい道でもある。誰にも相手にされないからだ。主流から離れること(周辺性)の重要性は、社会学者のマックス・ウェーバーが新たな宗教ができるときのポイントとして指摘している(古代ユダヤ教)。

 

・面白いのは、この本の分析が今流行のビッグデータと全く反対のアプローチを取っていることだ。著者は最初データベースなどを利用して、イノベーションの本質を調べようとしたという。しかしそこからは何も生まれず、結局個別の特異なイノベータを詳しく追うことで、この問題を解決した。ビッグデータは、現在”強いAI”とは何か、という形で、壁にぶつかりつつある。いずれにせよ、今流行の、ビッグデータを既存のソフトに掛けて、何か答えを得ようとするアプローチは早晩行き詰まるだろう。

 

・話は変わるが、日本の教育は、先生や親の言うことを聞く”いい子”を育ててきた。しかし、この本を読む限り、こうした子供から真のイノベーションは生まれない。親や先生の言うことなど、無視して、人から相手にされなくても自ら信じる道を進むことこそが大事なようだ。ちなみに1970年代までは、これが若者のアイデンティティだった。さて今は昔か。

 

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(参考)

・Schilling M.,Quirky,Public Affairs,2018

・Thornhill J.,"Quirky by Melissa Scilling-a mix of managemnet theory and biography",FT,2018/03/12