IT革新のもたらす新経済秩序
2018.08.18
・最近、IT革新の専門家ブリンジョルフソン(MIT)がおもしろい研究成果を発表した。それは、Eメールやユーチューブなど無料で皆が利用できるサービスの金銭価値を、アメリカの成人を対象として、調査したのだ(2017年)。
・それによると、ITサービスのWTA(willing to accept:それなしで済ますときのコスト)は、検索エンジン1.7万ドル/年、Eメール8.4千ドル/年、ディジタル地図3.6千ドル/年などであり、またユーチューブやネッフリックスなどのストリーミング・サービスは100-200ドル/年となっている。
・この結果を合計して円換算すれば(110円/ドル)、約320万円ほどとなる。家計調査の消費額(全国勤労者世帯、2017年)が約372万円/年だから、それに匹敵する額がIT革新による無料サービス(フリー)に流れていることになる。
・こうしてみると、IT革新は、既存サービスの代替というより、経済システム(秩序)自体を根本から変えつつあると考えた方がよい。たとえてみれば産業革命以前の駕籠かきサービスの値段と蒸気機関車の導入による運輸サービスのコストを比較するのが無意味なこと同じだ。
・ではIT革新がもたらす新経済秩序とは何か、これはベンクラー(コロンビア大学)などが一貫して追っているテーマだ。こうした知見を筆者なりにまとめてみたのが、表だ。
・現在の状態は、いわば新秩序の生まれる過渡期で、混沌から経済システムの自己組織化が進みつつある状態とみることができる。問題は日本の経済界が依然として旧秩序(工業化時代)にどっぷりつかり、変化の兆しが見えないことだ。
(参考)
・Brynjolfsson E.,Gannamaneni A.,"Using Massive Online Choice Experiments to Measure Changes in Well-being",NBER Working Paper 24514,Apr.2018.
・Gordon Robert.,” The Demise of U.S. Economic Growth: Restatement, Rebuttal, and Reflections” ,NBER Working Paper No. 19895, February 2014
・Y. Benkler, Peer Production and Cooperation, forthcoming in J. M. Bauer & M. Latzer (eds.),Handbook on the Economics of the Internet, Cheltenham and Northampton, Edward Elgar.
・クリス・アンダーソン、「フリー」, 小林 弘人 監訳, 高橋 則明 訳、NHK出版、2009年