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ランダム化比較試験について

ランダム化比較試験について

  2018.07.08

・最近友人が読んでいる津川氏の「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」を見せてもらった。「どの食品が健康に良いか」は、皆の関心事であり、テレビでもいろいろ取り上げられている。この本は、エビデンスに基づいて書かれているため、内容に信用がおける感じがした。

 

・そこで取り上げられている検証方法が、ランダム化比較試験(randomized controlled trial,RCT)だ。この手法のわかりやすい説明がパールのThe Book of Whyに出ているので示しておく(同書、p146-149)。

 

・パールはUCLAの先生で、専門はコンピュータ科学と哲学、2011年にチューリング賞を受賞した碩学だ。

 

・彼は説明に因果図(原因と結果を矢印で結ぶチャート)を用いる。図はパールのものを若干わかりやすくしたものだ。今ある肥料が作物の収量に影響するかどうかを検討しようとする。その場合、肥料の効きと収量の双方に影響する因子が存在する。ここでは土地の肥沃度、土地の排水性、土地に在住する細菌などとする。

 

・たとえばある土地の水はけが良いかどうかによって、肥料は有効に土地に染みこむかどうかが決まるとする。またその作物の収量は水はけの良さによって決まってくるとする。この場合、土地の排水性は、肥料の効きと作物収量の双方に、影響を与えることになる。この要因を除去しないと、本来の検証したい関係(ある肥料が、ある作物の収量に影響を与えるか)を観察データから抜き出すことはできない(図-1)。

 

・そこでフィッシャー(1890-1962、推測統計の確立者)が考え出したのが、ランダム化比較試験だ。図-2のように、肥料をランダム化して投入すれば、土地の肥沃度や排水性といった要因と肥料との関係が切れるため、本来検証したい因果関係(肥料→収量)を検証できる。

 

・この方法は論理的には、100%正しいが、問題は、検証に利用するデータにランダム化処理がきちんと行われているかどうかだ。それが因果関係検証の精度を左右することになる。

 

・この因果関係の検証問題は、今のAIで流行のテーマだ。「ビッグデータにディープマイニングのような処理を機械的に加えれば、そこから未発見の因果関係が鮮やかに取り出せる」といった週刊誌的な見方は、やや単純すぎる。今のAI開発は、「弱いAI」から「強いAI」へと向かいつつある。その際、鍵になるのが、パールの提唱する因果図であり、また一つの可能性としてのランダム化比較試験の現代版ということになる。

 

(参考)

津川友介、「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」、東洋経済、

Pearl J.,The Book of Why,Allen Lane,2018