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トヨタの将来と日本の自動車産業

トヨタの将来と日本の自動車産業

  2018.05.13

 最近の新聞によると、トヨタは今期2年ぶりの最高益(2.5兆円、平成30年3月期)を計上したようだ。これはトヨタのみならず、日本経済にとっても結構なことだ。

 

 しかしこのままで行けるかどうかは、やや疑問がある。ここ10年で、自動車の潮流は「内燃機関+マニュアル・ドライブ」から「EV(電気自動車)+自動運転」に大きく変わってきたからだ。

 

 インターネット開発の元となったDARPA(国防高等研究計画局)のグランド・チャレンジ(自動運転カーのコンテスト)が行われたのは2004年から2007年に掛けてである。わずか十数年前のことだ。ここでの勝者だったスラン(Thrun S.)率いるスタンフォード・チームはグーグルに引き抜かれ、グーグルwaymoの開発に携わっている。またマスク(Musk E.)が率いるテスラはEV(電気自動車)で先行し、いくつかの事故は起こしているが、半自動運転方式をテスト中である。おそらく今後の自動車の動向を決める鍵はこうした企業が握っている。

 

 最近になって、この潮流がより本格化してきた。シンクタンク・マッキンゼーの最近の報告書によると、2017年の世界のEV(電気自動車)の販売台数は、史上初めて100万台を突破したという。これはプラグイン・ハイブリッド(PHV)と純電池車(BEV)の合計だが、BEVが7割弱を占めている。同社の予測によれば2020年のEVの販売台数は450万台に達する。ちなみに日本の乗用車販売台数(軽を含む)は420万台程度(2016年)で、この数にほぼ等しい。

 

 しかも注目すべきは中国市場である。そこでの純電池車(BEV)の販売台数は、2017年には前年の7割増しとなり、すでに規模でヨーロッパやアメリカを抜いたという。ここには中国のしたたかな自動車戦略が見て取れる。中国は在来型の自動車(内燃機関駆動)では欧米や日本のメーカーに追いつくことは困難だから、純電池車(BEV)で、一挙に世界の自動車産業のリーダーシップを取ろうとしている。ケータイの場合と同じく、自動運転ソフトはアメリカが間違いなく優位だが、製品としての純電池車(BEV)が、ケータイのように中国で生産され、それが世界に輸出される時が間近に迫っている。

 

 欧米でも、温暖化問題とからめて、内燃機関に対する逆風が吹いている。英国は2040年には内燃機関車の販売(プリウスなどのハイブリッドを含む)を禁止するようだ。またノルウェーは2025年までに新車の販売をEVとPHV(プラグイン・ハイブリッド)のみに限る。カリフォルニア州も英国と同じような方向に進んでいる。

 

 日本の場合、惜しかったのは、「EV(電気自動車)+自動運転」が急速に本格化した2010年代に、燃料電池車(FCV)に時間と資金を取られて、遅れを取ったことだ。テスラを率いるマスクが燃料電池のことをFuel CellではなくFool Cellだとからかったのは記憶に新しい。問題は「EV(電気自動車)+自動運転」の開発スピードは、自動車のそれではなく、ケータイやクラウドのようにIT革新のスピードで決まってくることだ。この点が自動車産業に従事している人にはわかりにくい。この遅れを自動車メーカーが取り戻すことは難しいだろう。

 

 ここで思い出すのは、日経の名物記者だった佐藤正明氏のトヨタに対する忠告だ(2012年)。彼は日本の産業や企業に詳しく、ビデオのVHSとベータマックスとの戦いを描いた著作は、西田敏行主演で映画にもなった。またホンダやトヨタに関する著作もある。彼の心配は、創業家から出た現社長(2009年就任)が、この変化の激しい時代にトヨタを引っ張って行けるかということだった。彼の言葉を使えば、「乱世の時代に経験不足の御曹司にトップが務まるのか」ということだ。冒頭にのべたように、現在トヨタの業績は円安やトランプ減税のおかげで好調だ。しかし数年後には「EV(電気自動車)+自動運転」という形で自動車の概念が大きく変わったとき、周回遅れになったトヨタがこれに対応できるだろうか。これは日本経済の将来に対する懸念でもある。

 

 

(参考)

・産経新聞、「トヨタ2年ぶり最高益」、2018年5月10日

・Mckinzey&Company,"The Global electric-vehicle market is amped up and on the rise",May,2018

・Campbell P. and Pickard J.,"UK to ban most hybrid cars ,including Prius ,from 2040",FT,May 5,2018

・Stoll J.,"Tesla's Factory in a Fishbowl",WSJ,May 8,2018

  「テスラのシリコンバレー式生産、業界が熱視線」

・Lambert F.,"Toyota admits 'Elon Musk is right' about fuel cell,but moves forward with hydrogen anyway",Electrek,Oct.26,2017

 

・佐藤正明、「あの強いトヨタはどこに消えた」、文藝春秋、2012年7月