テスラのショールーム
2018.04.15
仕事の関係でハワイに行ってきた。もちろんオフはカイルア海岸に行ってSUP(Stand Up Puddling)を楽しんできた。水は相変わらずきれいだが、ちょっと人が混み始めている。板乗りのあとはなじみのクレープ屋(行列のできているところではありません)でブランチだ。
仕事帰りに、ワイキキを歩いていたら、テスラのショールームが目にとまったので、入ってみた。目抜き通りの一階と二階を占めている。そこにはテスラSやテスラXが展示され、熱心な客が、いろいろと車体を触りながら、セールスマンと話し込んでいた。
頼めば試乗も可能なようだが、外国で運転するのはちょっといやなので、クルマを見せてもらうだけにした。一番の特徴は、ダッシュボードに設置された大きなディスプレイだ。パソコンの画面を縦にしたような感じで、そこにすべての運転情報が集約されている。
クルマを買う気はないので、その代わりにテスラのマーク入りジャンパーを購入した。今年の冬はこのジャンパーを着てプログラムに励もうと思っている。きっと御利益があるだろう。東京でも青山にテスラのショールームがあるから、覗いた人は居るかもしれない。ハワイで見る限り、駐車場で何台もテスラを見かけたし、またオフィスの駐車スペースには、EV専用の区画がもうけられ、そこでEVは駐車中に充電できる仕組みになっている。いよいよEV化時代が訪れてきた感じがする。
テスラと従来の自動車メーカーが作ったEVカーとはどこが違うのだろうか。最近イノベーションの専門家、シリングの書いたQuirky(”飛び抜けた天才”とでも訳すか?)という本を読んでいたら、その一端がつかめた(同書p70-)。
テスラの創業者マスクは、EV(電気自動車)への進出に当たり、アラン・ココニ(Alan Cocconi)がピオンテック・スポルテック(Piontech Sportech)のクルマキットを使って作成した電気スポーツカーに注目した。このクルマは時速100キロに達するのにわずか3.7秒しかかからない。
ココニにはすでにエンジニアで起業家のマーチン・エベルハード(Martin Eberhard)がアプローチしており、彼は鉛電池の代わりにリチウム電池に載せることを提案していた。マスクは彼と組むことにした。両者は、EV(電気自動車)に環境に優しいスポーツカーとして可能性を見いだしたからだ。
2004年にマスクは約600万ドルを用意して、全く新しいEVスポーツカーの作成に取りかかった。マスクが会長となり、エベルハードがCEOとなった。しかし時間が経つにつれ、両者の意見はぶつかり始める。たとえばエベルハードが開発の土台となったロータス・エリーゼの車体構造を利用しようとしたのに対し、マスクは車体をより軽く強くするため炭素繊維の利用を主張した。対立の基本は、エベルハードが従来のクルマのEV化を試みたのに対し、マスクは全く新しくしかも豪華なスポーツEVを作ろうとしたところにある。
結局マスクが勝ち、エベルハードは2007年に同社を去ることになる。マスクの戦略はあたり、新しいEVスポーツカーは、「スポーツカーというより、宇宙船といった方が妥当だ」(Autoguide.com)という高い評価を受けた。
結局何がテスラの成功を導いたかと云えば、従来のクルマのコンセプトを完全に壊し、リチウム電池+AI化したドライブ・ソフト+豪華で静かな室内+とてつもないスピード+ゼロエミッションを達成したところにある。
日本では、クルマのEV化に関しても、従来のクルマメーカーが主導権を取るのではないか、という意見が強いが、どうだろうか。マスクの成功はテスラを従来のクルマからはみ出させたところにある(これはロケットのスペースXでも同じだ)。従来のクルマメーカーがこうした”はみ出し”をできるかどうかは率直に言って疑問だ。それは現在売られている国産のEVカーを見ても感じることだ。
(参考)
・Schilling M.,Quirky,Public Affairs,2018