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自動運転とペイパルマフィア

自動運転とペイパルマフィア

  2017.11.25

・最近のギガジン(Gigazine)に出ていたDARPAコンテストの話(オリジナルはブルームバーグ)には、いろいろ考えさせることが多かった。DARPAコンテストは自動運転車のゆりかごであり、ここから自動運転が生まれたといってもよい。

 

・自動運転車は、最近では日本の新聞にもよく出てくるが10年前には、日本でほとんど注目するひとはいなかった。今から約5年前に筆者が『考えるクルマ』を翻訳したとき、面白かったのは、日本のクルマメーカーの技術者が一番反応が鈍かったことだ。これは後から考えると2つの理由がある。第一は、日本のメーカーは当時生産量で世界のトップに立ち始めており、いわゆる”慢心”状態にあり、外国の動きなど注目する必要がないと思ったのだろう。最近アメリカから自動車エンジニアOBの友人が来て、しみじみと言っていたが、「最近はともかく、過去10年ほど日本の自動車メーカーの鼻息は荒く、何を言っても聞く耳を持たなかった」とのことだった。

 

・『考えるクルマ』があまり興味を持たれなかった第二の理由は、自動車メーカーの技術革新のスピードが、これまでゆっくりしたものだったからだ。約10年単位ぐらいで変化を見ていけば、技術革新に乗り遅れることはなかった。この点はブルームバーグのレポートにも出てくるが、DARPAのグランド・チャレンジが成功した後もアメリカの自動車メーカーの反応は鈍く、自動運転が実用化するのは2030年から2040年だとみていたようだ。

 

・しかし自動運転はITの世界で起こった技術革新で、そのスピードはいわゆるドッグイヤーである(7年ですべてが変わる)。これを読み誤ったのが、自動車メーカーだろう。小売業におけるアマゾンと同じく、無人運転車は、自動車産業を根底から変える可能性を持つ。しかも変化のスピードは早い。これを見誤ると、日本の自動車メーカーの将来はあまり明るくないだろう。

 

・ブルームバーグの記事のもう一つの重要なポイントは、ペイパル・マフィアのことだ。ユーチューブに関しては、既に書いておいたが、ユーチューブの立ち上げにもペイパルマフィアが重要な役割を果たしている。ユーチューブの創立者の一人チェンはイリノイ大学のコンピュータ科学の学生だったときに、上級生のレプチンと知り合う。レプチンは同大学を卒業後カリフォルニアに移り住みペイパル創業者のひとりとなる。彼はチェンをペイパルに誘い、チェンは大学を中退してペイパルに入社する。

 

・ユーチューブの創業期に金を出したのはレプチンであり、さらにレプチンは、セコイヤ・キャピタルをチェンに紹介し、こうしてユーチューブが軌道に乗ることになる(ユーチューブはその後グーグルが16.5億ドル買収、2007年)。ブルームバーグの記事にも、DARPA同窓生のつながりと題した相関図が出ている。ようするにこのインナー・サークルに入っていなければ、自動運転の開発の最先端には触れられないことになる。

 

・この人のつながりの中でアイデアと金が良循環して、新たな企業が生まれるのが、IT社会の特徴だ。ここには政府の審議会も、テレビの評論家も、日本の有名大学も登場しない。日本にとって、つくづく難しい時代になったものだと思う。

 

(参考)

・Gigazine,「自動運転カーの世界を引っ張る優秀な頭脳は軒並み「DARPAコンテスト」の卒業生」、2017年11月2日

・Bloomberg,"The PayPal Mafia if Self-driving car has been at ut a Decade",2017.10.30

・Thrun S.,Montemerlo M.,Dahlkamp H.,Stavens D.,Aron A.,Diebel J.,Fong P.,Gale J.,Halpenny M.,Hoffmann G.,Lau K.,Oakley C.,Palatucci M.,Pratt V. and Stang P.,

"Stanley: The Robot that won the DARPA Grand Challenge",Journal of Filed Robotics, Special Issue on the DARPA Grand Challenge,Part2,Sept,2006

・室田泰弘、「YouTubeはなせ成功したのか」、東洋経済新報社、2007年

・ミッチェル W.,ボローニ=バード,バーンズ D.,「『考えるクルマ』が世界を変える」、室田泰弘訳、東洋経済新報社、2012年